肥後医育塾公開セミナー

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平成10年度 第3回公開セミナー「花粉症」

司会・講師

【講師】
大阪医科大学耳鼻咽喉科教授
竹中洋

演題:環境汚染と花粉症 問われる文明のあり方
    【講師】
    大阪医科大学耳鼻咽喉科教授
    竹中洋

    演題:環境汚染と花粉症 問われる文明のあり方
【講師】
国立療養所南福岡病院アレルギー科医長
岸川禮子

演題:九州の花粉飛散状況 晴天、風の強い日は用心
    【講師】
    国立療養所南福岡病院アレルギー科医長
    岸川禮子

    演題:九州の花粉飛散状況 晴天、風の強い日は用心

セミナーの内容

  肥後医育塾第三回公開セミナーが二月二十七日、熊本テル サで開かれた。今回のテーマは「花粉症」。竹中洋・大阪医 科大学耳鼻咽喉科教授が「環境汚染と花粉症」、岸川禮子・ 国立療養所南福岡病院アレルギー科医長が「九州の花粉飛散 状況」と題して講演。パネルディスカッション「花粉症を克 服するために」は竹中、岸川両氏のほか五十川修司・熊大医 学部耳鼻咽喉科助手、松下修三・熊大エイズ学研究センター 教授をパネリストに、石川哮・九州アレルギー・免疫センタ ー副センター長の司会で行われた。

パネルディスカッション

パネルディスカッション
「花粉症を克服するために」


パネリスト
五十川修司氏(熊大医学部耳鼻咽喉科助手)
松下 修三氏(熊大エイズ学研究センター教授)
竹中  洋氏(大阪医科大学耳鼻咽喉科教授)
岸川 禮子氏(国立療養所南福岡病院アレルギー科医長)
コーディネーター
石川  哮氏(九州アレルギー・免疫センター副センター長)
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●一つとは限らない原因…竹中氏

●要注意の日を見極める…五十川氏

 石川 最初に五十川先生から熊本市のスギ花粉飛散状況について報告していただきます。

 五十川 一九九五年と一九九八年を比較したデータを見てもらいます。九五年の総飛散数は一平方センチ当たり五五〇三個で、うち一日最大飛散数が九一九。九八年は同じく五六四と一一七です。このことからも推察されるようにスギ花粉の量は年によって違い、また一日で全体のかなりの割合が飛ぶことがお分かりと思います。従って要注意の日というものが必ずあり、花粉情報をうまく活用することがポイントになります。今年の予測ですが、昨年より多くなっており、花粉症の方は五つの注意事項を心がけて下さい。(1)外出時はマスク、メガネ(2)帰宅時のブラッシング(花粉症でない方も、家族に花粉症の方がおられる場合は必ず実行)(3)帰宅時の洗顔、うがい(4)洗濯物はよくはたいて取り込む(5)晴天の日は雨戸を開けっ放しにしないーです。

 石川 次に松下先生ですが、本日はご専門のエイズではなく、花粉症の患者代表といった立場からご自身の体験を踏まえてお話してもらいます。

 松下 私が花粉症になったのは一九八八年の秋のことです。花粉症は春の季節のことだと思われがちですが、スギ花粉は秋にも飛んでいます。振り返って私なりに原因を考えてみますと、大量の花粉の飛散のほかに大気汚染やストレス、不規則な生活などの因子が思い当たります。以来、いろいろな薬を試してきました。最近はよい薬も出ていますが、その前にまず私がお勧めしたいのは花粉症を引き起こす抗原を正確に見つけることです。これは血液を採って簡単に調べる方法があります。花粉症の苦しさは当人しか分からないもので、対策としては、とにかく原因となっている花粉が多く飛散する日は外出しない、窓を開けない、人も入れないことではないかとさえ思うほどです。普通、治療というものは病気の原因を相手にするものですが、花粉症に限っては薬物療法も減感作療法も患者側の反応を変化させてなんとか症状を軽くしようとするものです。そのことからつくづく思うことは花粉症は果たして“病気"なんだろうかということです。竹中先生の講演にもありましたが、原生林が消えて山はスギ林だけといった生態系の破壊や排ガス等の大気汚染、現代病としてのストレスなど社会のひずみが深く関わっていることを反省すべきと考えます。

 石川 あらかじめ質問を頂いています。私の方で整理して申し上げます。「花粉症のため、一年のうち快適な日は三カ月ぐらいしかありません。なんとかならないものでしょうか」という質問ですが。

 竹中 花粉症といってもすべてがスギ花粉症というわけではありません。長期にわたって症状があるということは他にもアレルギーを引き起こす抗原、例えばダニとかペットなどがあると推察されます。IgE抗体の検査を受けて対策を立てることだと思います。

 岸川 免疫療法(減感作療法)も試してみてはいかがでしょう。アレルギーを抑える注射や薬を併用して維持量まで続けていく方法が考えられます。

 石川 花粉症に対する戦略は三つしかありません。まず抗原を回避すること。できるだけ離れることですが、それには敵である抗原が何であるかを知らなければなりません。次に薬で抑えることです。ただし、それで治るとは思わないでください。あくまで抑えです。三点目が免疫療法。原因物質への抵抗力をつけ、体質改善を図ることです。

●薬服用は正しく慎重に…岸川氏

●ずいぶん改善された薬…松下氏

●主治医との共同作戦で…石川氏

 石川 免疫療法については「治る人と治らない人がいるのではありませんか」という質問がきています。確かに目下のところは五〇%、五〇%と考えてよいと思います。しかし、この療法は世界中で注目され、研究が進んでいます。近い将来、どういう人に効き、どういう人には効かないかも究明されると思います。そうしますと、半信半疑で治療するということもなくなります。次の質問ですが、花粉症とぜんそくの関係についてはいかがでしょう。

 岸川 これまでの症例では、花粉が原因でぜんそくになる人は珍しいケースに属します。しかし、先程の熊本市の花粉飛散状況でも示されましたが、一九九五年は観測史上、スギ花粉が最高に飛んだ年でした。この年についてみれば、ぜんそくに似た症状が多く出ました。飛散量との関係は考えられることです。

 石川 花粉症と風邪は間違えやすいものですが、質問の中に、その見分け方について教えてくださいというのがあります。

 松下 私の体験からも初期症状は大変似ています。ただ、鼻風邪は二〜三日で改善され、完全な鼻づまりとまではいきません。それと、花粉症は発熱を伴った全身症状が風邪
ほどひどくはないようです。

 石川 「家族性」についての質問が多く寄せられています。

 五十川 一般的に花粉症には劣性遺伝があると言われます。その際、何をもって花粉症というのかが問題になりますが、「IgE値の高い人」と規定すると、劣性遺伝の形式をとって症状が表れます。つまり両親が因子を持っていると、その子供が発症するということです。しかし、それは因子を持っていれば必ず発症するといったことではありません。

 石川 誤解のないように言っておきますが、遺伝病ではないということです。素因の一つにすぎないのであって、素因というのは人の顔が丸い細い、目が大きい小さい、といったようなことだと理解してください。素因があっても環境因子が入らない限り発症はないわけで、環境因子をしっかり拒めば問題はありません。それから質問の中に「ホルモン注射でよくなった」というのがあります。このホルモン注射というのが私には分からないのですが。

 岸川 おそらくステロイド剤のことではないでしょうか。アレルギー疾患や気管支ぜんそくに劇的な効果をもたらします。それだけに使い方には慎重さが要求されます。『私どもは作用時間の短いものや一時的な使用を心掛けています』。

 松下 アレルギーの薬には副作用を心配される方が多いと思います。また以前の薬は眠気を誘うので大変困りました。しかしそれも最近ではずいぶん改善されてきたと思っています。

 石川 副作用の問題も含めて花粉症の治療は主治医の先生との共同作戦で当たることが大切です。今回の話も参考にしていただき、花粉症を克服していきましょう。本日はありがとうございました。