肥後医育塾公開セミナー

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平成10年度 第3回公開セミナー「花粉症」

【講師】
国立療養所南福岡病院アレルギー科医長
岸川禮子

『九州の花粉飛散状況 晴天、風の強い日は用心』


   花粉のように吸入してアレルギーを発症する抗原を吸入性抗原といいます。これは肺炎や結核を引き起こす細菌、あるいは風邪のウイルスと異なって体のなかで増殖しないということが特徴ですが、もう一つの特徴はこの花粉に対する抗体ができますと、大気中の花粉の濃度に一致してアレルギーの症状が強くなったり弱くなったりすることです。
 花粉症の抗原は様々ですが、わが国ではスギ花粉症が圧倒的です。スギが日本固有の植物であり、また共通抗原性のあるヒノキと共に非常に多いことが原因と思われます。ただ、中国には日本スギに似た植物がありますので、今後の中国での研究が注目されます。
 スギやヒノキの花粉の大きさは非常に微小で肉眼では見ることはできません。そこで花粉捕集器によって採取し、顕微鏡でのぞいて調べます。花粉の数をカウントした結果が花粉情報として提供されます。
 九州では二月上旬からスギ花粉が飛び出し、ヒノキは約一カ月ほど遅れて三月から四月の上旬にかけてピークとなります。対馬辺りから東の方へ移っていく花粉の前線が見られ、地形的には海岸沿岸部に早く、内陸部は少し遅くなります。ただ、気象条件も加わって地域的には多少の違いはありますが、九州全体で見るとほとんど同じような形で年次変動が起こっていますので、どこかで一カ所で予測が出ますと、大体当たるのではないかと思います。

●予防の対策を

 スギ、ヒノキなどの木の花粉のほかに草の花粉としてイネ科カモガヤやキク科のヨモギ、ブタクサなどがあります。ブタクサはアメリカの花粉症の原因としてよく知られていますが、九州にも多く、中でも熊本、宮崎で目立ちます。また九州ではブタクサのほかにもカナムグラ、熊本では特にイラクサ科が多いことがわかっています。これはぜんそくを起こすことで要注意とされています。
 県別のスギ、ヒノキの植林面積を見てみますと、九州は他に比べて多く広がっています。スギは二十年以上になりますと花をつけはじめますので、特に三十年以上の木が問題になってきますが、すでにその半数以上が三十年以上です。
 ただどういうわけか、全国調査を見ますと、木の多さにしては花粉量は少ないという結果が出ています。不幸中の幸いといえましょうが、今後はたくさんの花粉をつけることになるかもしれません。予断は許されないと思います。
 花粉の飛散は気象条件に大きく左右されます。花粉は開花時期を迎えると飛び出していくのが普通なんですが、異常に低温であったり雨が多く降ったりといった天候不順がありますと、飛び方が減少したり、集中度が低下したりします。これがないと花粉は気持ちよく飛んでいくわけで、風が強く、晴天の暖かい日はたくさんのスギやヒノキの花粉が飛んでいます。花粉症で悩んでいる方はそのことをよく認識することによって、花粉の回避につなげていただきたいと思います。
 今年も二月以来、スギ、ヒノキの花粉が飛び出しました。現在その真っ盛りの時期といえます。この一カ月近くの統計を見ますと、花粉の量が急に少なくなっている日があります。これは寒気が戻った日です。花粉の飛散は気温に非常に敏感に反応することが改めて 納得されますが、これから暖かくなる春に向かって一層注意が必要です。
 ところで、最近は症状がなくても予防的受診を行う方が増えてきました。花粉が飛び始まる前から対策を立てるとともに、私どもの提供する花粉情報が少しでも役に立てば幸いです。