肥後医育塾公開セミナー

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平成10年度 第2回公開セミナー「気管支ぜんそく」

司会・講師

【講師】
(大阪府立羽曳野病院アレルギー小児科部長)
豊島 協一郎

演題:基調講演「ぜんそくの包括的ケア」
    【講師】
    (大阪府立羽曳野病院アレルギー小児科部長)
    豊島 協一郎

    演題:基調講演「ぜんそくの包括的ケア」
【体験発表】

魚住秀昭

演題:体験談「小児ぜんそくをどう克服したか」
    【体験発表】

    魚住秀昭

    演題:体験談「小児ぜんそくをどう克服したか」

セミナーの内容

  肥後医育塾の本年度第二回公開セミナー((財)肥後医育振興会・(財)化学及血清療法研究所・熊日主催、協賛・新産住拓株式会社、医療法人財団聖十字会)が十二月五日、熊本テルサ(熊本市水前寺)のテルサホールで開催された。今回のテーマは「気管支ぜんそく」。
 基調講演では大阪府立羽曳野病院のアレルギー小児科部長として、ぜんそく治療の研究と実践を行っている豊島協一郎氏が「ぜんそくの包括的ケア」と題し講演。小児ぜんそくの体験談、ぜんそく治療の基本となる呼吸機能を高める運動指導に続き、パネルディスカッションが行われた。

パネルディスカッション

「子どものぜんそく」


パネリスト
岡崎 ※治氏(上天草総合病院名誉院長)
興梠 博次氏(熊大医学部第一内科講師)
豊島 協一郎氏(大阪府立羽曳野病院アレルギー小児科部長)
魚住 秀昭氏(熊本中央病院放射線科医長)
コーディネーター
江頭 洋祐氏(公立玉名中央病院院長)
菅 守隆氏(熊大医学部第一内科助教授)

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 江頭 同じ気管支ぜんそくでも大人と子どもでは、その症状や対処方法が違ってきます。パネルディスカッションでは、「子どものぜんそく、大人のぜんそく」というテーマで話を進めて行きたいと思います。まず岡崎先生に子どものぜんそくに関する解説をお願いします。

 岡崎 私どもが八年ほど前に約五万五千人の小学生を対象に調査した喘鳴(ぜんめい)羅患率(調査人数に対するぜんそく患者の割合)では、女子より男子、田舎より都市部の方で割合が高くなっています。都市部でなぜ、ぜんそくの子どもが多いかというと、近年の住宅事情が関係しています。昭和三十年代後半から新建材を使用したプレハブ方式の住宅が増え始め、アルミサッシも普及し、家屋の気密性が高くなってきました。また化学繊維を使ったカーペットも一般化し、ぜんそくの主な原因とされるチリダニの発生数が、都市部を中心に住宅着工数の増加と共に増え続けていくわけです。チリダニは生後四十日で卵を産む非常に繁殖率の高い生物で、四回脱皮します。その脱皮した殻もアレルギーの原因となります。昨年夏の「ぜんそく学級」に参加した生徒たち約百人の家庭を対象に、ハウスダスト中のチリダニ数を調査したところ、約五五%の家庭で通常より非常に多い数が発見されました。

 菅 気管支ぜんそくに悩まされる子どもたちの六割近くが非常にチリダニの多い家屋で生活しているということですね。

 岡崎 子どものぜんそくはそのほとんどがアレルギー症状です。心理的な要因が全くないとは言えませんが、環境が与える影響が非常に大きいようです。これが成人になるにつれて気管支や肺の状況が変わってくることもあり、心理的要因が介在する割合が増えてきます。十二、三歳から十五、六歳ぐらいまでを思春期ぜんそくと呼んでいますが、この時期は患者の死亡率が約二%と高いのが特徴です。精神的に不安定な時期という面もありますが、何事にも反抗的な時期ですから、治療法に則した生活をしないということが主な原因です。しかし高いといっても二%程度ですから、治療法を守るように指導すればゼロにすることもできると思っています。

●治療効果高い水泳
 江頭 子どものぜんそくの治療法としては、どのようなことが一番適切なのでしょうか。

 岡崎 子どもの場合、薬物使用はできるだけ避けるようにしています。薬で治していくよりも呼吸機能を高めるような治療法が適切です。治療手段のうち自分で実践できる代表的なものが水泳です。ぜんそくの治療法としての水泳の特徴は、湿度の高い環境で横になってできる運動であるということのほか、アレルギー要因がない、水の抵抗があるので自然と腹式呼吸になることなどが挙げられます。海水の場合はプールよりももっと効果が高いといえます。真水よりも比重が高いので簡単に浮くということに加え、子どもの場合、飽きないという利点も大きいのです。プールと違って波があり、景色を眺めながら泳げるので、長い時間でも飽きずに水泳を楽しめるわけです。

●ぜんそく学級の活用
 菅 岡崎先生は毎年、夏休みに「ぜんそく学級」を開催されていますが、参加することのメリットとしてどのようなことがあるとお考えですか。

 岡崎 まず自分と同じようにぜんそくで悩んでいる子どもが、ほかにもこんなにたくさんいるんだということを知って精神的に楽になるということが大きいと思います。また家庭で一人で治療を行うよりは、集団で規則正しく進めていく方が効果的なのは明らかです。あとこれは私の個人的な見解ですが、親と離れて生活をすると、子どもたちの知能指数が確実に上がるようです。親元を離れ、自分で考えて行動するという習慣を身に付けることで、精神的な成長はもちろん、知能の発達も促進するということは今後、子どもを教育する上で一つの考え方になるんではないかと私は思っているくらいです。子どものぜんそくの特徴としては、その原因が体質的なものだけではなく、生活環境によるところが大きいということ。また治療法としては楽に頼らず、呼吸の機能を高める鍛錬などが中心になります。

「大人のぜんそく」


パネリスト
岡崎 ※治氏(上天草総合病院名誉院長)
興梠 博次氏(熊大医学部第一内科講師)
豊島 協一郎氏(大阪府立羽曳野病院アレルギー小児科部長)
魚住 秀昭氏(熊本中央病院放射線科医長)
コーディネーター
江頭 洋祐氏(公立玉名中央病院院長)
菅 守隆氏(熊大医学部第一内科助教授)

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 菅 大人のぜんそくに関しては、ぜんそくと似たような肺の病気があると思うのですが、どういったものがありますか。

 興梠 まず男性のヘビースモーカーに多く見られる肺気腫(しゅ)があります。息を吐く時の方が吸うときよりきつく、階段を上ったりした時など、体を動かした時に呼吸がきつくなるのが特徴です。ぜんそくとは治療の方法が違うので注意が必要です。そのほか慢性気管支炎というのがあり、これは黄色など色の付いた痰(たん)が非常に多く出るのが特徴です。喫煙によって発生する場合もあり、また喫煙とあまり関係なく発生する場合もあります。

 菅 大人の肺の病気というと、どうしても喫煙の問題が気になるのですが、やはり影響があるのでしょうか。

 興梠 喫煙は肺気腫、肺ガンなどの肺の病気に限らず、心筋梗塞(こうそく)などの血管の障害にも大きな影響がありますので、控えるかやめた方がいいと思われます。

 菅 大人のぜんそくで、最近の主な原因となっているのはどういった事でしょうか。

 興梠 猫など家庭内で飼うペットが原因となっているケースが多く見られます。特に最近、猫やハムスターを飼った家族がぜんそくになるといった例が多く発生しています。そのほか、そばなどの特定の食物やアルコール、火山の噴煙などさまざまな要因があります。ペットでぜんそくが発生した場合の予防法としては、まずペットと離れて生活するのが最善策なのですが、どうしても手放すことができない人の場合は、寝室などにはペットを入れないようにするといった工夫が必要です。そのほか民間の薬局で販売しているアスピリン系のかぜ薬や痛み止めでぜんそくが起こることもあります。また高血圧や狭心症などの治療薬の中で、ぜんそくの症状を助長するものがあります。よって受診のときは必ずぜんそくがあることは医師に伝えて下さい。そのような場合はすぐに服用をやめて、医者に相談するようにして下さい。

 菅 治療に関して子どもの場合との違いはありますか。

 興梠 大人でもあくまで治療の基本は吸入です。子どもはインタール吸入、大人の場合はステロイド吸入が中心となります。ぜんそくに限らないことですが、治療については納得できるまで、理解できるまで医者に相談することが大事だと思います。

 江頭 ぜんそくについてたくさんの質問が寄せられていますので、質問に答える形で進めていきたいと思いますが、まずぜんそくという病気の概要、現在どのような状況にあるのかについて、興梠先生にまとめてもらいたいと思います。

 興梠 子ども、大人に関係なくぜんそくという病気は現在、克服することがほぼ可能です。自然に治ることもありますし、治療を丁寧に続けて行けばほとんどの場合、通常の生活においての障害を無くすことができるようになりました。しかし、そのためには正しい診断と、それに基づく正しい治療法の実践が不可欠です。放っておいても治るだろうと、侮ってはいけません。症状としては呼吸が重くなる、苦しくなるほか、ゼーゼー、ヒューヒューという音がします。また眠っているときに呼吸がきつくなるというのが、他の病気と違うぜんそくの特徴です。肺は肺胞と気管支に分かれていますが、肺胞の炎症が肺炎と呼ばれるものです。気管支ぜんそくの場合は肺胞に空気の出し入れをする気管支の部分がはれたり、詰まったりするもので、空気の出し入れがスムーズにできないのでゼーゼー、ヒューヒューという音がするのです。ぜんそくかどうかということを見分けるのは、痰を調べるのが一番確実で、それにより原因と治療法も分かります。治療法としては吸入が中心となります。大人の場合はステロイド吸入、子どもの場合はインタール吸入で治していくのが基本です。これらの吸入を我々は"基礎化粧品"と考えています。毎日欠かさず繰り返し行うことで、不必要な薬物に頼らないぜんそく治療を勧めています。

●気になる薬の副作用
 江頭 質問の中で一番多いのが薬の副作用に関する事です。いま興梠先生が"基礎化粧品"という大変うまい表現をされたステロイド吸入ですが、子どもの場合にはステロイドというだけで、小児科の先生などは敬遠される向きがあります。子どもの場合のステロイド吸入について、豊島先生はどうお考えですか。

 豊島 確かに子どものぜんそくに対してのステロイド吸入は、私もよく聞かれることです。子どもの場合はインタール吸入が中心に行われており、うまくいかない場合は気管支拡張薬を混合して吸入します。それでもどうしても治らない場合は、私はステロイド吸入を積極的に使用するべきだと思っています。ぜんそくの症状が治らず、それによって子どもの発育、精神に与える影響の大きさを考えると、ステロイド吸入の副作用の心配は、はるかに小さいと言えます。ステロイドという名前に抵抗がある人が多いようですが、ステロイド吸入の場合、飲むステロイドなどの量に比べると、桁違いに少ないのです。これまでにステロイド吸入が子どもの成長に強く影響したという例はありません。
 ただし、あくまで基礎治療の上に成り立つのが薬物治療であり、インタール吸入やステロイド吸入をしていてもアレルゲンや喫煙の回避、鍛練などの基礎をおろそかにしないで下さい。

●必ず専門医の診断を
 江頭 次に治療をいつやめればいいのか、またやめてもいいのかという質問も数多く寄せられていますが、これに関しても豊島先生にお答え願います。

 豊島 一人ひとり症状が違う訳ですから、非常にむずかしい問題なのですが、日常生活に支障が無いということを治癒したと規定すれば、その時点で治療を軽減しそれでも問題がなければ、いったんやめてもいいと思います。ただし再発の恐れや突然、発作が起きないとも限りませんので、ピークフロー値(PEF、最大呼気流量)を定期的に調べるといった自己管理を怠らないことが大切です。

 菅 次に妊娠中のぜんそく治療に関する質問も来ていますので、これに関して興梠先生お願いします。

 興梠 基本的な事を申し上げますと、妊娠三カ月までは胎児の臓器が出来上がる時期ですので、内服薬は控え、吸入療法を中心にして、吸入後必ずうがいを行うことが重要です。

 江頭 そうですね。特に抗アレルギー剤は控えた方がいいと思います。私は漢方薬をよく処方しますが、漢方薬はあくまで補助療法として活用しています。

 菅 非常に重要な問題としてぜんそくで死亡するという例は依然としてあるのですが、この問題に対してはどう取り組んで行けば良いのでしようか。

 豊島 現在は治療のタイミングを失しなければ、死に至ることはありません。そのためにはピークフロー値の観察は大変役立ちます。状態が悪くなったら、医者はそれに応じた処置を行います。我慢せずに必ず専門医の診断を受けることが大事です。

 江頭 最後になりましたが魚住先生、小児ぜんそくの経験者として何かアドバイスをお願いします。

 魚住 私が子どものころには無かったピークフローメーター(発作の程度を測定する器械)による自己管理で、ほとんどの事故は防げるようです。ぜひ皆さんも実践して欲しいと思います。