肥後医育塾公開セミナー

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平成10年度 第2回公開セミナー「気管支ぜんそく」

【講師】
(大阪府立羽曳野病院アレルギー小児科部長)
豊島 協一郎

『基調講演「ぜんそくの包括的ケア」』


   ぜんそくの患者さんやご家族と私のお付き合いは、すでに二十年になります。
 日本では小児ぜんそくが増えており、中学生や高校生の患者も増加傾向にあります。子供の心理的発達の問題に加え、進学などの社会的負荷の大きさも一つの要因になっているのではないでしょうか。ぜんそくの包括的ケアは、そのような社会的側面まで考慮すべき時代になりました。
 ぜんそくはほとんどの患者さんでは死に至る病ではありませんが、発作時の対応を誤れば死亡につながります。ぜんそくの発作で亡くなられた方を調査した結果、八六%の人は助かる可能性があったことが判明しました。いかに発作時の適切な処置や対応が必要か、お分かりいただけると思います。
 そのような意味も含めて、患者さんが社会生活を送るうえでのハンディキャップがないよう、医師は悪い状態の時をきちんと把握し、薬を上手に使ってコントロールする必要があります。また、重症化させないためにはぜんそくのメカニズムを理解し、個々の患者さんに適した治療を継続することが大事です。さらに、発作時の対処だけでなく、患者さんの日ごろの体調管理も重要なポイントです。
 治療に当たっては抗炎症効果を重視し、吸入治療を優先するなどがあります。大事なのは患者さんの状態を客観的に見て、継続的な対処を図ることです。効果が上がらない時は、薬の使い方を間違っている場合が多いようです。特に吸入治療では、薬が肺に到達しないと効き目が表れないので正しい吸入方法に注意してください。小児ぜんそくの場合は、落ち着いて安心できる状態で吸入するようにします。
 また、家庭でできるトレーニングとしては、(1)上半身の運動(2)走ること(3)ラジオ体操(4)一家そろっての乾布マッサージ(5)水遊びなどがあります。
 ところで、アレルゲンの回避のためにダニ掃除に精を出すのはいいのですが、家庭内のダニをゼロにするのは不可能です。アレルゲンだけにこだわらず、薬物・トレーニング・心理面の改善など含めた多面的な治療をお勧めします。家族、患者さん共に、焦らずバランスのとれた対処を心がけてください。喫煙も避けてほしいですね。
●大事なスキンシップ
 現代の子供たちは遊び場も少なく、遊ぶ時間すらありません。都市生活の中で生活全体がチグハグになっています。昨今は幼児教育が盛んですが、人間は技術的に育つものではありません。心と体は切り離せないものですから、親子や家族同士のスキンシップや温かな触れ合いで安定した情緒を育むことが大切です。
 また、ぜんそくは患者さん自身の体質的な面もありますが、心理的な部分も無視できません。それだけに親の育て方や接し方が問われます。過保護ではいけないけれど、温かく優しい態度で患者さんと向き合い、支えてください。治療の際は患者さんの自信回復が重要なファクターです。学習空白や行事への不参加が心身両面で自信を低下させることが多いのです。家族のいたわりとともに、社会の温かい目がぜんそくの治療に欠かせない要因なのです。
 さらに、患者さんの症状の軽減は医師だけが取り組めばいいという問題ではなく、生活環境などを含めて改善すべきことが多々あります。大人の責任として、快適な生活環境をつくる努力が求められます。そのようにして、患者さんのQOL(生活の質)を高めていくことが発作の軽減につながります。
 情報過多に惑わされず、医師と患者さんとの間でしっかりしたパートナーシップを確立することが治療の前提となります。正しい情報の伝達、交流なしに効果は上がりません。それを両者でつくりあげていくことが基本だと思います。