肥後医育塾公開セミナー

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平成10年度 第1回公開セミナー「アトピー性皮膚炎」

司会・講師

【講師】
(東京医科歯科大学医学部皮膚科教授)
西岡清
○にしおか・きよし 昭和44年、大阪大学大学院医学研究科修了後、同大皮膚科助手に。その後、ロンドン大学皮膚病研究所研究員、関西医科大学皮膚科講師、大阪大学医学部皮膚科講師を経て、61年、北里大学医学部皮膚科助教授。平成2年、東京医科歯科大学医学部皮膚科教授。10年、同医学科長。
演題:基調講演「アトピー性皮膚炎の現在」
    【講師】
    (東京医科歯科大学医学部皮膚科教授)
    西岡清
    ○にしおか・きよし 昭和44年、大阪大学大学院医学研究科修了後、同大皮膚科助手に。その後、ロンドン大学皮膚病研究所研究員、関西医科大学皮膚科講師、大阪大学医学部皮膚科講師を経て、61年、北里大学医学部皮膚科助教授。平成2年、東京医科歯科大学医学部皮膚科教授。10年、同医学科長。
    演題:基調講演「アトピー性皮膚炎の現在」
【体験発表】

新立正也

演題:体験談「アトピー性皮膚炎患者として」
    【体験発表】

    新立正也

    演題:体験談「アトピー性皮膚炎患者として」

セミナーの内容

  肥後医育塾の本年度第一回の公開セミナーが十三日、熊本市水前寺公園の熊本テルサで約五百人が参加してあり、「アトピー性皮膚炎」をテーマに大学教官や患者らが意見を交わした。肥後医育振興会、熊日主催。
 西岡清・東京医科歯科大皮膚科教授が「アトピー性皮膚炎の現在」と題して基調講演。同皮膚炎の特徴を解説し、「難治性だが、必ず治る病気。自分の肌に合った治療法を見つけることが大切」などと話した。
 同皮膚炎患者の県南の男性(32)が体験発表。「病気でつらい思いもしたが、自分の成長につながった。前向きに楽しみを見いだしてほしい」と語った。
 「生活環境病としてのアトピー性皮膚炎を考える」と題したパネル討論もあり、「妊婦が卵や牛乳を自分の判断で取らなくなるのは危険」「『アトピーに効く』などという商品や、民間療法はかえって悪化させることがあるので注意が必要」などの指摘があった。

パネルディスカッション

パネルディスカッション
「生活環境病としてのアトピー皮膚炎を考える」

パネリスト
・西岡清氏(東京医科歯科大学医学部皮膚科教授)
・城野昌義氏(熊本大学医学部皮膚科講師)
・松本知明氏(熊本大学医学部発達小児科講師)
・新立正也氏(公務員)

 小野 パネルディスカッションに入ります。皆さんから多くの質問を頂いておりますので、そのいくつかも交えながら進めます。パネリストに基調講演の西岡先生、体験談の新立さんのほか、熊大医学部の城野、松本両先生をお迎えしております。最初にお二人からお話してもらいます。

 城野 アトピー性皮膚炎はかつては子供の病気でした。それが最近は熊大病院に来られる方の半数が十八歳以上と、大人の病気にもなってきております。
 私どもで行った調査があります。対象は三つの小学校と熊大学生約七千人です。小学校では全体の一〇〜一五%に発疹が見られ、医者が認めるアトピー性皮膚炎も相当数に上りました。ただ実施した三校のうち大野小では非常に少ない結果が出ました。この学校は芦北の自然に囲まれた山の中にあり、環境面との関連をうかがわせます。
 熊大での調査では三・一%がアトピー性皮膚炎と診断され、重症で通学も難しいと思われる学生が三十一名もいました。先程述べたように成人型の増加がここでも見られます。

 松本 小児科の医師として診療に当たっています。赤ちゃんは肌が極めて敏感ですからちょっとした刺激でも赤くなります。放置すると著しい炎症状態にもなりかねませんので、ステロイド剤も含めた早めの処置が必要となります。ただ、このステロイドについては抵抗も強いわけですが、どうあろうと放っておくのはよくありません。
 食べ物が関係するという点も間違いではありませんが、子供から食べ物を除外するということは大変罪な話です。そこで私たちは、例えば卵が悪いというのであれば、それと似たものをつくって食べ比べしてもらいます。人は先入観に大きく左右されるからです。そうしながら本当に悪いのかどうか確かめるわけです。面倒くさい方法ですが、やらなければならないことだと考えています。

 小野 城野先生の報告で成人型のアトピーが増えたこと、郡部の小学校には少なかったことが挙げられました。

 西岡 最近は横バイ状態ですが、成人型が増えて来たことは大いに懸念されることです。それは郡部の小学校の件と関係しますが、都市部における生活環境の劣悪化が指摘されると思います。直接的にアトピー性皮膚炎とは結びつかないにしても、その中で予備群といえるものがつくられ、発症した場合、病態として同じ形になってしまうということです。

 小野 新立さんは東京での暮らしを振り返ってどう思われますか。

 新立 東京では三カ所移り住みましたが、その中で一番状態が悪かったのは交通量のとても多い環状八号線の近くにいたときでした。そのことから考えますと、環境の善し悪しはやはりあるかもしれません。

 小野 皆さんからの質問で多かったものの一つに、妊娠時の不安があります。

 西岡 私は結婚している女性で、アトピー性皮膚炎の患者さんを何人も知っています。それで生まれてきた赤ちゃんですが、なんら異常はありませんでした。そうした例は多く、私としては余計な心配をすることはないと思います。それから妊娠中のお母さんの中には医師の指示でもないのに、卵や牛乳を勝手にやめる方がいます。これにしても、大事な栄養素を取らないほうがむしろ問題です。

 松本 私の見るところ、卵や牛乳を避ける方は次第に減ってきて、今はあまり見られなくなりました。しかし、そういうこととは関係なく、突き放した言い方になりますが、アトピーになる人はなるのです。

 小野 母乳がいいかどうかについてもたくさんの質問を頂いております。

 松本 これも結論から言えば、関係ないということです。

 小野 プール、海水浴についてはどうでしょう。

 西岡 私の場合は、どうぞお入りなさいと言っています。ただ、そのときの状態に応じた善後策は必要です。皮膚に少し傷があったりカサカサしているときは保湿剤をぬって保護してやることです。海水浴については昔から湿疹に効くと言われてきました。確かによくなる人もありますが、悪くなる人もいます。アトピーに関しては人それぞれに個人差があるというのが大前提です。

 小野 お風呂についてはどうですか。

 城野 私はなるべくなら入ったほうがいいという考えです。やはり、汚れを残さない、付着したダニやカビを洗い流すことは肌を守る上で欠かせません。

 西岡 その際の洗いすぎには注意を要します。石けんを肌にすりこむような洗い方は皮膚を刺激し、バリアを壊すことになります。石けんやシャンプーが自分に合っているかどうかのチェックも大事です。私はガーゼ状のタオルで石けんを泡立て、その泡で洗い流すやり方を勧めています。アトピー用石けんというのもありますが、これははっきりいって疑問です。

 小野 耳の痛いことですが、医者のくれた薬を使ってかえって悪くなったという苦情も寄せられました。

 西岡 何度か診療しお互いの気心もわかり、皮膚の状態もわかっている患者さんではなく、初めての方ですとそういうこともあるかと思います。最初はどうしても相手の状態がつかめませんから、私たちとしてもいくつかのサンプルの中からこれはどうでしょうと提示するほかありません。それで相手に合わないものになることもあるわけです。しかし、大事なのはその後です。医師にその結果をきちんと伝えてください。そうした医師と患者のピンポンゲーム的なやりとりが医療の向上につながります。

 小野 家を建てるに当たっての注意点は。

 城野 アトピー性皮膚炎の原因がすべてダニというわけではありませんが、高頻度の抗原であるのは事実です。そこでダニ対策を考えた家づくりとなると、やはり鉄筋より木造住宅のほうがベターということになります。結露を防ぐ対策もポイントで、二重窓の設置などが望まれます。

 小野 民間療法についてはどう思われますか。

 新立 私もいろいろと試しましたが、一種の流行やブームに乗っかるのは危険だと思います。私の場合、効果が認められるものがありましたが、効果がないものも多かったです。 

 西岡 一概に否定するつもりはありませんが、まずは常識に合っているかどうかで判断して頂きたいと思います。例えば、塩を体にぬりつけるなど、これはどう考えても皮膚に余分な刺激を与えるだけです。アルカリイオン水を毎日三リットル飲むというのも、そんなことをしたら寝ている間に体は汗まみれです。肌にいいはずがありません。
 
 小野 最後にストレスについてお聞かせください。
 
 新立 私の体験からいえば、大いに関係すると思います。もっともこれはアトピーに限らずどんな病気でも同じでしょうが。
 
 松本 赤ちゃんの場合、意思表現ができません。そのためストレスといってもそれを推し量れないのでなんとも言えないのですが、それでもストレスはあり、決して無視してはならない大事なことだと思います。
 
 西岡 お気づきにならないかもしれませんが、ストレス気味のお母さんから子供を離すだけでよくなるケースもあるのです。少なくともストレスが高じると神経系から免疫系と変化が生じます。そのことから症状が悪化することは十分考えられることです。
 
 小野 本日はありがとうございました。