肥後医育塾公開セミナー

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平成10年度 第1回公開セミナー「アトピー性皮膚炎」

【体験発表】

新立正也

『体験談「アトピー性皮膚炎患者として」』


   私にアトピーの症状が出始めたのは小学校の中学年ごろからでした。当時はまだアトピー性皮膚炎という名前自体がよく認知されていないころで、奇病扱いでした。
 病院でもらったステロイドの軟膏(こう)を頼りにしていましたが、状態が良くなったり悪くなったりを繰り返しながら、顔を中心に皮膚が次第に赤くなり、その後しわだらけになるなど悪化していきました。
 高校の三年生の時、「ET」という映画がはやりました。しわだらけの象のような肌の顔を持つ宇宙人が主人公です。私はその宇宙人に似ているとからかわれました。今でもその悔しさは忘れられません。周囲にはアトピーのつらさが、全く理解されていなかったのです。
 いっこうに良くならないまま、東京の大学へ進学しました。大学三年の時にステロイド軟膏の恐ろしさを人から教えられた私は、使っていた軟膏をやめてしまい、症状は急激に悪化してしまいました。
 顔はお岩さんのようにはれ、血だらけになり一睡もすることができなくなりました。気が狂って死んでしまうのではないかと思うぐらい症状は重くなり、一年間休学しました。良いと聞くものはすべてというぐらい漢方、断食そのほか民間療法もやりました。
 大学卒業後は熊本に帰ってきましたが、就職はとうの昔にあきらめ、家の手伝いをしながら様子を見ることにしました。そうした中、仕事ができるぐらいの状態までになり、今からという時、症状が急激に悪化しました。白内障、網膜はく離などで目も見えなくなりましたが、どうにか休職を頂けましたので、現在も仕事を続けることができています。
 先程の西岡先生のお話にもありました通り、この病気は自分の生活を見直し、原因を見つけ、コントロールしていくことが大切です。
 私の場合は夏場よりも、気温が二十五度を割るような秋口からが要注意です。経験から言えば、酒、たばこ、チョコレート、コーヒーや油ものは避けた方が良いようです。原因は人によって違いますので、朝起きてから寝るまで、部屋の状況や食事、睡眠など生活のリズムも細かく点検してみることが大切です。
 アトピー性皮膚炎は命にかかわる病気ではないので、軽く考えられがちです。しかし、その一方で社会的偏見も根深いものがあります。その解決のために、私としてもできることをしたいと思っています。患者の治そうという意志だけでなく、家族や周囲の協力や支えなくしては、肉体的にも精神的にも頑張ることはできません。どうか理解ある態度で、アトピーの患者を支えてあげて下さい。
 最後にアトピー性皮膚炎になって、大変な思いもしましたが、かえって恵まれたことも数多くありました。支えてくれた人たちの温かさを感じ、ほかの病気に苦しむ人の頑張る姿を見ることができました。アトピーにならなければそんな貴重な経験はできなかったのです。
 希望を捨てず、焦らず、できることから始めてください。絶対に治ります。