肥後医育塾公開セミナー

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平成10年度 第1回公開セミナー「アトピー性皮膚炎」

【講師】
(東京医科歯科大学医学部皮膚科教授)
西岡清

○にしおか・きよし 昭和44年、大阪大学大学院医学研究科修了後、同大皮膚科助手に。その後、ロンドン大学皮膚病研究所研究員、関西医科大学皮膚科講師、大阪大学医学部皮膚科講師を経て、61年、北里大学医学部皮膚科助教授。平成2年、東京医科歯科大学医学部皮膚科教授。10年、同医学科長。

『基調講演「アトピー性皮膚炎の現在」』


   アトピー性皮膚炎はこれまで子供の病気とされてきました。しかし、近年は大人にも増えて社会的に注目を集めるようになり、それに伴い一種の混乱が生じ、「これでアトピーが治る」といったことがあれこれ言われています。
 私の勤務する大学病院にも多くの方がアトピーと診断されて治療に来られますが、実はそのうちの三分の一が誤診です。最初が間違っていると治る病気も治らないわけで、まずはしっかりした診断が第一です。
●アレルゲンを断つ
 アトピー性皮膚炎の背景としては二つあります。一つは皮膚の過敏症です。赤ちゃんがなりやすいのは弱い刺激でも過敏に反応してしまうからです。従って皮膚に加わる刺激物を除いてやるということがアトピーをとらえる上での大切なポイントになります。
 もう一つはアトピー素因を持ちアレルギー反応を起こしやすい体質かどうかです。というと、すぐ遺伝ということに結び付けてしまいがちですが、問題は何かの刺激が遺伝子を動かすから発症するのであって、考えるべきはその元となるアレルゲンを断つことです。すべて遺伝のせいにするのは間違っています。
●「清潔好き」に疑問
 私たちの皮膚は体の表面を覆うバリアです。そうして体を保護しているわけですが、そこを傷つけて異物が侵入すると障害を起こします。特に日本人は清潔好きで、毎日のようにごしごし体や髪を洗いますが、それが皮膚にとって喜ぶべきことかどうかは疑問です。皮膚を過酷な状態にしているだけかもしれません。
 皮膚に障害をもたらす因子は実に多く、化学物質、食品添加物、花粉、細菌、ペットなどさまざまなものが挙げられます。ただし、十人十色というように皮膚もまたそれぞれに違います。これらの因子がすべて湿疹やかぶれに関係するわけではありません。よくいわれる卵や牛乳、大豆、またダニにしても同様です。
 湿疹やかぶれが起こるのは皮膚にある因子が入ってきたとき、それを排除する機能を持っていないからです。だから要は、その人にとっての余分なものが体に入り込まないようにすればいいわけです。
 ただ、この余分なものというのは生活習慣と深くかかわっています。何が原因なのか。石けんやシャンプー、リンスにしても何度か試しながら自分に合うものを見つけることです。
 同時に、毎日髪を洗う必要があるのか、高級な石けんが本当に皮膚によいのかといったことなども併せて考えてみてください。私たちは常識の非常識、必要でもないことをやっている例が意外と多いのです。アレルギーを避けるには君子危うきに近寄らずで、悪いと思われる因子を遠ざけることが今のところでは最も有効な治療です。
 実際的な治療ではステロイド剤や抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤が用いられます。しかし、これはあくまで一時的にかゆみや湿疹を抑えるだけで全治するわけではありません。使い方にしてもステロイド恐怖症という言葉もあるように難しいものがあります。
 アトピー性皮膚炎の治療で最も重要なことは病状を抑えながら、その間にどういう時にどういう場所でどういう状態が起こるのか、いわゆるTPOを見つけ出すことです。医者はそれらに基づいて検討を加えながら共通項を探り、原因究明に当たります。そうすることによって確かに難治ではありますが、アトピー性皮膚炎は治ると私は確信しております。