肥後医育塾公開セミナー

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平成11年度 第3回公開セミナー「慢性肝炎・肝硬変症 治療の進歩」

司会・講師

【講師】
(国立長崎中央病院院長)
矢野 右人

演題:基調講演 「肝臓病の現況と対応」
    【講師】
    (国立長崎中央病院院長)
    矢野 右人

    演題:基調講演 「肝臓病の現況と対応」
【講師】
(富山医科薬科大学第三内科教授)
渡辺 明治氏

演題:基調講演 「肝臓病における食事と生活習慣」
    【講師】
    (富山医科薬科大学第三内科教授)
    渡辺 明治氏

    演題:基調講演 「肝臓病における食事と生活習慣」

セミナーの内容

  肥後医育塾の平成十一年度第三回公開セミナー((財)肥後医育振興会・(財)化学及血清療法研究所・熊本日日新聞社主催、熊本大学医学部・県・熊本市・県医師会・(財)熊本テルサ後援、リバテープ製薬(株)協賛)が三月四日、「慢性肝炎・肝硬変症治療の進歩」をテーマに、熊本市水前寺公園の熊本テルサで開催された。
 セミナーでは、国立長崎中央病院院長の矢野右人氏が「肝臓病の現況と対応」、富山医科薬科大学第三内科教授の渡辺明治氏が「肝臓病における食事と生活習慣」と題して基調講演を行い、その後、「慢性肝炎・肝硬変症との上手なつきあいかた」と題したパネルディスカッションに移った。
 パネリストには矢野、渡辺両氏に、栄養管理コンサルタントの安田洋子氏を加え、熊本大学医学部第三内科助教授の藤山重俊氏がコーディネーターとなって、会場から寄せられた質問に各氏が答える形で進められた。

「慢性肝炎・肝硬変症との上手なつきあいかた」をテーマに行われたパネルディスカッション

パネルディスカッション

パネルディスカッション
「慢性肝炎・肝硬変症との上手なつきあいかた」


<パネリスト>
矢野  右人氏(国立長崎中央病院院長)
渡辺  明治氏(富山医科薬科大学第三内科教授)
安田  洋子氏(栄養管理コンサルタント)
<コーディネーター>
藤山  重俊氏(熊本大学医学部第三内科助教授)



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データ積み重ねが治療の大きな指針…矢野氏
がん予防は食から野菜や果物に働き…渡辺氏
   特別食と構えずに家庭の食事工夫を…安田氏
病状をよく理解し前向きの姿勢大事…藤山氏


 藤山 わが国では慢性肝炎や肝硬変の患者さんが百数十万人ないし、それ以上いるといわれています。その主な原因はB型・C型肝炎ウイルスですが、この十年、二十年の研究の中で肝臓病のメカニズムがずいぶん解明され、ウイルスの持続感染のほかに種々の要因が関係していることも分かってきました。現在、肝臓を患っていらっしゃる人も決して怖がることなく、医師と一緒になって前向きに病気と向かい合っていただければ、治療の効果も十分に発揮されることになるかと思います。パネルディスカッションでは、あらかじめ会場の皆さんから寄せられたアンケートの質問にお答えするかたちで、その内容を踏まえながら進めていきたいと思います。まず、血液検査で肝障害の程度をよくGOT、GPT(肝細胞が壊されると血液の中に流れ出してくる酵素)の指標で表しますが、それ以外の検査方法などを知りたいという質問がありました。矢野先生からお答えいただきたいと思います。

 矢野 肝機能検査では肝臓の障害の原因が何か、今どれくらい細胞が壊されているか、その影響がどれくらい残っているのかを調べます。日本人の場合、ほとんどがウイルスによるB型やC型肝炎ですので、B型であればHBs抗原(B型肝炎ウイルスの表面抗原)を調べます。陽性であれば血液中にウイルスがいると考えられます。またC型であれば、まずHCV抗体(C型肝炎ウイルス抗体)でスクリーニングを行い、必要な場合にはさらに、HCV―RAN検査によりC型肝炎ウイルスそのものを直接調べます。それでも原因が分からなかったら、さらに自己免疫性肝炎や原発性胆汁性肝硬変などを疑い一段進んだ検査を行います。私は肝臓の病気を火事にたとえます。火事で家が延焼している、どう燃えているかをみるのはGOT、GPTの検査です。しかし肝臓の機能がどう保たれているのかはアルブミン(Alb=血液蛋白の一部で肝臓でしか作られないため、肝臓の機能が悪くなると低下し、著しく低下するとむくみや腹水が出る)を調べます。さらに進んだ慢性肝炎などは組織の繊維化、すなわちどのくらい肝病変が進展しているかをみます。この検査の決め手としては肝生検検査(超音波診断装置を使って肝組織のごく一部を生検針で採って、それを顕微鏡で見る検査)を行う場合があります。炎は消えたけど火事の焼け跡がどれくらい広がっているのか、一つ一つのデータをみることは、肝臓病治療の大きな指針となります。

 藤山 次はB型肝炎への質問です。四十年前に肝臓が腫れていると診断され、昨年診察を受けたらB型肝炎であったけれども治っているといわれた。また、別の方ですが、十年前にHBe抗原がe抗体に変化したが、s抗原はそのまま残っている。今後、再発の心配はないかということです。

 矢野 四十年前はまだB型やC型肝炎と分からなかった時代ですが、現在はB型肝炎ウイルスが残っている証拠がないということですので、B型肝炎は治っていると考えてよいでしょう。後者の場合ですが肝機能も正常であればほとんど感染性はありません。B型肝炎には無症候性の肝硬変という可能性もわずかながら考えられますので、繊維化のマーカーあるいは肝生検が必要かどうか、一度総合的な検診を受けて、異常がなければ普通の健康な人と変わらないと思います。

 藤山 肝臓病の場合、長期間にわたって薬を服用することがありますが、具体的にどのような副作用が出てきますか。

 渡辺 薬に対するGOT、GPTの反応を見ながら薬の種類や量を増やしたり減らしたりします。長期間にわたり投薬しますので、副作用が出やすいということにもなります。本来は副作用が非常に少ないといわれている生薬、ウルソやミノファーゲンCも実際には副作用が起きることがあります。ウルソでは胃が悪くなったり、便が軟らかくなったりといった消化器症状が出てきます。ミノファーゲンCは、血圧が高くなるという人がいます。また副作用の症状はやせている人と太っている人では違いますし、遺伝的な要素もあります。一般的に高齢者の方が肝臓で薬物を解毒する代謝機能が弱ってきていますので、かぜ薬でも十分注意しなければなりません。

 藤山 次に現在、二十四歳の男性ですが、高校一年の時に献血でB型肝炎ウイルスに感染していることが分かった。将来、結婚した場合に夫婦や親子間で感染することが心配という質問です。また治療はどうしたらよいかということです。

 矢野 この例はキャリアとしてウイルスは持っているけれども、自分の肝臓にいわゆる火事が起きていないという状態ですので、治療の必要性はありません。治療しても意味がありません。治療を行うことは肝臓がある程度悪くなっているということが条件です。しかし、残念ながらe抗原が陽性ということであればウイルス量が多いわけですので、感染源になって他人に感染(うつ)す可能性が考えられます。ただし日常生活においてはかなり濃厚な接触がない限り感染しませんので、食器などを一緒に洗っても大丈夫です。ただカミソリなど血液が付着しそうなものを共用すれば感染の可能性があります。家族など身近な人はすでに抗体ができている可能性が大きいと思います。
 ただ結婚はお嫁さんが他家から嫁いでこられますので、ちゃんと隠さずに話をしてあらかじめワクチン接種を受けてもらうことが大切です。

 藤山 次はC型肝炎についてです。HCV抗体が陽性であったが低い値であって、HCV―RNA(ウイルスの核酸)は陰性といわれた。また肝機能は正常ということです。

 矢野 質問通りの内容であれば、何ら問題がありません。HCV抗体価が低いということはウイルスがいないということです。自然経過の中でこのような状態になったのであれば、C型肝炎は終息していると考えてよいでしょう。

 藤山 C型肝炎の治療でインターフェロンについての質問がいくつかあります。いわゆるGOT、GPTは正常値で続いているがウイルスがいるということなので、インターフェロン治療が必要かどうかということです。それからインターフェロン治療を行いウイルスは消えなかったが、GOT、GPTは正常が続いている。このような場合再びインターフェロン治療を行った方がよいか。また肝硬変や肝がんになる確率はどれくらいかということです。

 矢野 肝機能が正常な人で、C型肝炎ウイルスだけを持っている健康なキャリアの人が「ウイルスを消してください」と治療に来ますが、インターフェロン治療をいくらやってもウイルスは消えません。インターフェロン治療の対象となる人は肝炎が比較的早期の段階で、かつGOT、GPTが高い人に効果があります。インターフェロン治療を行ってウイルスは消えなかったが肝機能は正常となった人は健康と思われて結構ですが、定期的に肝機能検査やエコーなどを受けてください。そして数年後、GOT、GPTに異常が出た場合にはインターフェロンの再投与を含めた何らかの治療が必要となります。 C型肝炎が、がんや肝硬変にどれくらいの割合で進行するかとのご質問ですが、一般的にはキャリアの中で二〇%ぐらいでしょう。八〇%はよくなっています。問題はすでに肝硬変にどれだけ近づいているかです。繊維化のステージ分類では軽い方から1度、2度、3度、4度(肝硬変)と四つに分けています。肝硬変やがんになる確率は、患者さん本人がどのステージに分類されているかということで大きく異なります。

 藤山 脂肪肝が肝硬変になるのか、という質問についてはいかがでしょうか。

 渡辺 結論からいえば、太り過ぎで脂肪肝となっていても、通常は肝硬変にはならないと考えていただいて結構です。

 藤山 健康食品について、どう考えたらよいかという質問もきていますが。

 渡辺 厚生省では平成七年から特別用途食品とか特定保健食品というものを許可しています。例えば肝臓病や太り過ぎの人には組み合わせ食品、お年寄り用食品、お腹の調子を整える食品、血圧やコレステロールを下げる食品など、表示して売られています。遺伝的な病気などの場合、食生活を改善しても寿命を伸ばすことはできません。しかし、糖尿病のように生活習慣の影響を強く受けるような病気には大変効果があります。
 一方、健康食品は厚生省の特別な許可がいりませんので、多くの種類があります。しかしまだ十分な効果が確定していないものが多くあると思われます。いずれにしても主治医に相談してみることが必要です。

 藤山 次は食事療法の話題に移りたいと思います。高たんぱく・高カロリーの食事はもう気にしなくてよいのかという質問です。

 安田 慢性肝炎の栄養基準量は、以前は高エネルギー・高たんぱくということで、しっかり栄養をとりなさいといわれていました。しかし、今日では適正なエネルギー、そしてやや多めのたんぱく質の摂取でよいのではないかというふうになってきています。肝臓病の人の一日の栄養基準量ではエネルギーが一八〇〇キロカロリー、たんぱく質が七〇グラム、脂質が五〇グラム、糖質が二七〇グラムとなっています。これは個々の患者の性差や年齢差、労働量の違いなどによっても異なり、皆さんがこの基準値のようにはならないと思いますので、平均値と思っていただきたいと思います。
 大事なエネルギーを体の中で生み出す三大栄養素である、たんぱく質・脂質・糖質のそれぞれのエネルギー比を「PFC比」と呼んでいますが、エネルギー比率がたんぱく質から一六%、脂質から二四%、糖質から六〇%とれるようになっています。そのほかにもビタミンとかミネラル、食物繊維、水分も十分とっていこうということです。

 渡辺 食事とがんの関係について世界中の専門家が調査した結果が三年前に発表されましたが、がんを抑えるのは野菜や果物、起こしやすくするのはお酒、肉、塩辛いものだそうです。がんを予防するためには野菜や果物が大事で、一日四〇〇グラムから八〇〇グラム、食塩は一日六グラムにしようと呼びかけています。

 藤山 これまでしっかり栄養やたんぱく質をとりなさいといわれていたが、肝臓病がさらに悪くなったらたんぱく質を控えなさいといわれた。そこで肝臓病と食事の関係について教えてほしいということです。

 安田 飽食の時代といわれて久しいのですが、平成九年の国民栄養調査によれば、日本人が一日にとるエネルギー量、たんぱく質や脂質などの量はエネルギーが二〇〇〇キロカロリー、たんぱく質が八〇グラムになっています。データでは肝臓病の人の摂取量が少し低めですが、最近のように一般的にカロリー摂取量が多い時代の中で、肝臓病の人がさらにカロリーをとっていくことになると脂肪肝の問題が出てきますので、そのあたりの判断が難しいところです。
 また、肝硬変では治療にたんぱく質であるアミノ酸製剤を使いますので、その分、食事のたんぱく質を減らさなければなりません。少し分かりづらいかもしれませんが。具体的に慢性肝炎の人の食品のとり方ですが、一日のエネルギーが一八〇〇キロカロリー、たんぱく質が七〇グラムなんですが、主食になるご飯は五五〇グラムぐらい、一食が一八〇グラムぐらいになります。主菜となる魚がひと切れ七〇グラム、肉が五〇グラム、卵が五〇グラムで一個、大豆製品、牛乳が二〇〇ミリリットル一本、副菜になる芋類が六〇グラム、緑黄色野菜が一二〇グラム、単色野菜が二〇〇グラム、海藻・きのこ類が五〇グラム、デザートとして果物が二〇〇グラム、調味料は油が一〇グラム、味噌が一二グラム、砂糖が一五グラム、し好品は入っていませんのでお菓子を食べられるようであれば、その分の砂糖を調整して頂きたいと思います。
 食欲がないときは分食しても結構です。また、肝臓病の食事は特別に作る必要はありません。家庭で作っている普通の食事を少し工夫をしてもらえば、ほとんど一緒に料理を作ることができます。旬の食材で彩りよく作ることも大事です。

 藤山 玄米食は肝臓病によいかという質問もありますが…。

 安田 玄米食は高ビタミン、高ミネラルで大変よいわけですが、ただ不消化の部分があるので圧力釜で軟らかく炊いて、よくかんで食べることが大切です。

 渡辺 最近の調査では、肝硬変の患者さんの状態は健康な人が二、三日絶食した状態に似ているといわれています。そのような状態では元気になれないし、病気もよくなりません。そこで夕食後、寝る前に二〇〇キロカロリーぐらいのバランス食をとったら、肝臓の働きもよくなるという研究も発表されています。

 藤山 今回は皆様のご質問に、先生方からそれぞれの立場でお話して頂きました。まだまだご質問があるかと思いますが、このへんで終わりたいと思います。ありがとうございました。