肥後医育塾公開セミナー

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平成11年度 第3回公開セミナー「慢性肝炎・肝硬変症 治療の進歩」

【講師】
(富山医科薬科大学第三内科教授)
渡辺 明治氏

『基調講演 「肝臓病における食事と生活習慣」』
食習慣を改善し運動も


   日本人は第二次世界大戦のころまで、ご飯に塩辛い漬け物を食べ、毎日、体をよく動かしていました。当時は栄養失調による病気が多く、結核は国民病といわれました。その後、五十余年の歳月がたち、食生活の欧米化が進むとともに高度経済成長の波に乗り、車社会となり運動不足や過剰なストレスに悩まされるようになりました。そして飽食の時代を迎え、栄養のとり過ぎによる問題が生じて、高齢化社会とともに糖尿病、がんといった生活習慣病が増えてきました。
 肝臓病の中で生活習慣と深くかかわりのあるのは、肝臓の中に中性脂肪がたまる脂肪肝です。要因は太り過ぎとお酒の飲み過ぎ、糖尿病。中でも食べ過ぎによる肥満の人に断然多い。しかし、太っているだけでは病気にはなりません。お腹の中に脂肪がたまる内臓型脂肪の肥満が危ないのです。お腹の中の脂肪が多い、あるいは血液の中によいコレステロールが少ない、中性脂肪が多い、糖尿病、あるいはその予備軍、高血圧、この五項目すべてがそろっている人は動脈硬化になりやすい。そして寿命が短くなるということで内臓脂肪症候群、「死の四重奏」と呼ばれています。脂肪肝は確かに肝臓病なのですが、生活習慣が深く関係する全身の病気だと考えて頂きたいのです。
 慢性肝炎から肝硬変に移るのはほぼ六十歳。肝硬変あるいは肝がんになって亡くなるのはその後の六十代後半から七十代です。高齢者は栄養状態が悪くなりやすく、免疫力が低下します。それを放置すると肺炎など感染症を起こしやすくなります。そこでまず高齢者であることを念頭におき、食習慣を改善し、運動が続けられる環境を整えてあげることが大事です。
 肝臓病の診療が大きく進歩し、ウイルスによる慢性肝炎、肝硬変はインターフェロンによってウイルスを弱めたり、体から排除する治療ができるようになりました。五十年前は、黄疸があるから肝臓病と分かっていたわけで、高たんぱく・高カロリー・低脂肪の、当時としては特殊な食事を勧めていました。今はみんながそれを食べているので、肝臓病であってもバランスのとれた食事を規則正しくとっていればよいということになっています。ただ、注意しなければならないのは、脂肪肝の人にはカロリーを減らす、甘いものや油っこいものを減らす、そして黄疸のある場合は脂肪の量を減らさなければならないことです。
 一方、私どもは肝臓病の人に対して「安静にしなさい」と言い続けてきました。「食後は一時間も二時間も安静にしなさい」と。確かに食後はお腹に血液が集まり消化吸収が行われるわけで、しばらく安静にするのはだれにとってもいい習慣なのです。しかし、それによってよくなるという学問的証拠はありません。むしろ、そうすると運動能力や心肺機能が落ちますし、精神的に無気力になるという問題が起こってきます。
 安静にしなければならない肝臓病もあります。急性肝炎で病状がピークを超えるまで、あるいは慢性肝炎が急に悪くなった場合、肝硬変でお腹に水がたまったり、黄疸が出た場合などです。
 お酒については原則として禁酒を指導しています。肝炎ウイルスが活動的になるといわれているからです。また、たばこについては、従来は、たばこと肝臓病はあまり関係ないと思われていましたが、たばこを吸う人が肝臓がんになる頻度は、吸わない人の三倍以上です。「長く吸ってきたから今さらやめてもしょうがない」と思わないでください。きょうからやめれば必ずそれだけの効果が得られます。
 肝臓病の患者さんは血液検査が安定しているからといって安心することなく、定期的に外来受診を続け、普通の人と同じように日々の生活をすこやかに過ごしていただきたいと思います。