肥後医育塾公開セミナー

肥後医育塾公開セミナー
肥後医育塾公開セミナー

平成11年度 第3回公開セミナー「慢性肝炎・肝硬変症 治療の進歩」

【講師】
(国立長崎中央病院院長)
矢野 右人

『基調講演 「肝臓病の現況と対応」』
定期的なチェック大切


   ウイルスの病気のうちで天然痘・小児マヒ・ウイルス肝炎・エイズの四つは、近代の歴史の中で代表的な病気といえます。
 ウイルスで最初に撲滅された病気が天然痘です。一九七九年、WHOが撲滅宣言を行いました。また小児マヒは、早ければ二〇〇一年には撲滅宣言が出されるのではないかとみられています。そこで問題なのがウイルス肝炎とエイズです。
 日本で今、一番問題になっているのは患者数からいってもウイルス肝炎です。ウイルス肝炎に基づく慢性肝炎・肝硬変の患者数はほとんどピークに達し、これから新しい患者は出てこない時期にきています。将来的には天然痘や小児マヒ同様、撲滅されるでしょう。しかし、国民の中に広がっている二百万から三百万人以上いるといわれるキャリア(ウイルスの持続感染者)をどうするかという現実的な問題があります。
 肝炎ウイルスの種類には、A・B・C・D・Eという型があります。このほかにも新しいウイルスの型がありますが、日本人に多いのはA・B・Cの三つです。このうちキャリアになる可能性はB型とC型ウイルスの二種類で、ほとんどが血液を介して感染します。B型の場合、母子感染したような人だけがキャリアになります。
 ところがC型は一度感染すると、あらゆる年齢層の六〇%以上がキャリアになるという特徴があります。しかしながら、今日では新たなキャリアとなる人はB、C型ともわずかな数となってきました。
 B型慢性肝炎の根本的な治療は今のところまだまだ難しいわけですが、自然経過で三分の一以上は治ってしまいます。肝硬変になるのは三〇%ぐらいで、三五%ぐらいがよくなって、ウイルスが消え、治ってしまいます。残り三五%ぐらいはどうなるのかまだ分かっていません。
 B型肝炎で気を付けなければならないのは二十五、六歳まで何の症状も出なかった人が突然発症し、年を取ってだんだん免疫力が弱くなると炎症が強くなるケースです。そして肝硬変になってしまいますが、炎症はおさまっています。
 つまり肝臓自体が焼け野原の状態になってしまって、ウイルスがいなくなったので肝機能はほぼ正常になるということです。しかし、無症候性の肝硬変が五年、十年続いて、がんになってしまうことがB型肝炎にはあります。
 一方、C型肝炎は進行性であるのか、そうでないのか見極めることが大切です。C型肝炎ウイルスのキャリアのうちの二〇%ぐらいは肝硬変やがんに進行する可能性があります。しかし七〇、八〇%ぐらいの人はがんや肝硬変に移行することなく、持続性肝炎の患者として人生を全うしていくことになります。
 C型肝炎にインターフェロンを使用した場合、どれくらいよくなるのか、ウイルスが消滅してしまう患者さんが三〇%、ウイルスは残っていても肝機能がよくなる患者さんが二〇%、そして効き目がない患者さんが半分ということです。
 C型肝炎はB型肝炎よりがんや肝硬変になる割合が少し高くなります。またC型は自然に放っておいて治るということはほとんどありません。
 したがって、元気で肝機能が正常といっても、肝臓は精密検査をして定期的にチェックしておくことが大切です。特に、過去に慢性肝炎と言われた人は、がんになる心配がないのか、それともがんになりやすい状態でおちついているのか、チェックが必要です。
 肝臓がんの治療は大まかに内科的治療と、外科的治療があります。一つの治療方法にだけ固執する必要はありません。症状の経過によってウイルスの進行をコントロールする治療法も行われています。また、病気と共生していくことも大切です。