肥後医育塾公開セミナー

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平成11年度 第2回公開セミナー「公的介護と介護保険」

司会・講師

【講師】
(厚生省大臣官房政策課企画官)
蒲原 基道

演題:基調講演 「介護保険の特質と仕組み」
    【講師】
    (厚生省大臣官房政策課企画官)
    蒲原 基道

    演題:基調講演 「介護保険の特質と仕組み」
【講師】
(神戸市看護大学教授)
岡本 祐三

演題:基調講演 「介護保険と老人保健」
    【講師】
    (神戸市看護大学教授)
    岡本 祐三

    演題:基調講演 「介護保険と老人保健」

セミナーの内容

  肥後医育塾の平成十一年度第二回公開セミナー((財)肥後医育振興会・(財)化学及血清療法研究所・熊本日日新聞社主催、熊本大学医学部・県・熊本市・県医師会・(財)熊本テルサ後援、リバテープ製薬(株)協賛)が十二月十一日、「公的介護と介護保険」をテーマに、熊本市水前寺公園の熊本テルサで開催された。
 セミナーでは、厚生省大臣官房政策課企画官の蒲原基道氏が「介護保険の特質と仕組み」、神戸市看護大学教授の岡本祐三氏が「介護保険と老人保健」と題して基調講演。このあと「老人福祉から介護保険への展開」と題したパネルディスカッションが開かれた。蒲原、岡本両氏のほか、県医師会理事の米満弘之氏、消費生活コンサルタントの星子邦子氏をパネリストに、熊本大学医学部公衆衛生学講座教授の二塚信氏の司会で進められた。

「公的介護と介護保険」をテーマに開催された第2回公開セミナー

パネルディスカッション

パネルディスカッション
「老人福祉から介護保険への展開」


<パネリスト>
米満 弘之氏(県医師会理事)
星子 邦子氏(消費生活コンサルタント)
蒲原 基道氏(厚生省大臣官房政策課企画官)
岡本 祐三氏(神戸市看護大学教授)
コーディネーター
二塚  信氏(熊本大学医学部公衆衛生学講座教授)



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支援専門員の充実… さまざまな課題が
“苦情を言える"環境 問題改善する機関を
サービスの自己負担 低所得者の軽減措置    的確なサービス提供 本格的リサーチ必要
よりよい内容づくり 積極的に意見出して


 二塚 いよいよ四月から介護保険制度がスタートします。介護サービスを受けるための認定作業はすでに進んでいますが、まだまだ市民の間では、この制度が分かりづらいとの声が聞かれます。パネルディスカッションでは、まず米満先生から介護サービスを提供する側としてのご説明を、星子さんからはサービスを利用する市民代表としてお話しいただきます。

 米満 介護保険では、認定を受けると要介護度に応じて、在宅と施設の二通りのサービスが供給されます。その際、利用者の希望や心身の状態に合ったサービスができるよう、市町村や在宅サービス事業者、介護保険施設などと連絡、調整を行う介護支援専門員(ケアマネジャー)が利用できます。
 在宅サービスにはホームヘルプ、日帰り通所サービス、施設への短期入所、住宅改修の補助などが含まれますが、利用者に出すサービスの種類や量をプランニングするケアマネジャーの仕事は大変、難しいものです。県内にはケアマネジャーが三、四千人ほど誕生していますが、その実力はまだ未知数で、これから力をつけていただきたいと思います。
 もちろん、利用者は何もかもケアマネジャーに任せると決まっているわけでなく、自分でケアプランを立てたり、直接、希望の施設を選んで申し込んだりすることもできます。
 施設サービスは、介護保険対応型療養型病床群、老人保健施設、特別養護老人ホームで対応しますが、すでに施設を利用していて要支援や要介護度一と認定された場合、在宅自立を余儀なくされる一面も出てきます。
 よって、私は介護保険制度の導入に関し、(1)介護支援専門員の資質の充実(2)ケアプランの正確な内容(3)在宅サービスの適正な提供(4)施設サービスの適正な利用(5)マンパワーの不足解消(6)保健福祉サービス計画の達成―が課題になると考えています。
 加えて、在宅での要支援や要介護度一の人の寝たきり防止のため、デイケアでのリハビリなど予防介護に力を入れることも重要でしょう。

 星子 私は高齢の両親の下に生まれ、夫も一人息子だったため、介護する側だけでなく、介護を受ける側の大変さも身近で分かっています。そのため介護保険は、自分が年を取ったとき自ら選び、利用できる制度であってほしいと思います。
 私は三年ほど前、県内の特別養護老人ホーム百三十カ所余りを全て取材して本にまとめました。当時、一般の人が施設の実態を知る機会は少なく、ホームはうば捨て山と見なされがちでした。しかし、いざニーズが発生した時に近隣の施設の介護内容がどんなものなのか、きちんとした情報を持ちたかったのです。
 実際にホームを訪れ、私は社会が認識を改めなければ、と思いました。食事も介護も個別に細心の注意が払われた内容で、これを在宅で三百六十五日、二十四時間できるでしょうか。娘や嫁だから当然と言われても、人間ですし、女性の社会参加も進んでいますから…。
 だから一人で背負い込まず、いろんな制度を使えばよいとありますが、「他人が家の中に入るのはいやだ」「あの人は、介護は他人任せで自分の仕事をしている」などの声があるのです。これらの認識を変えない限り、どんなにいい制度も十分には使いこなせません。
 家族の中にも年代、価値感の違いがあり、地域はその集まりでできています。そこへ一つの方法で情報を流すのでなく、いろんな人に分かるよう、いろんな角度から、私たちの常識をも変えるような情報を流してほしいと思います。

 二塚 では、会場の皆さんからの質問を先生方に答えていただきます。第一点は、これまでの福祉制度は同じサービスでも、本人や家族の所得に応じて自己負担が異なっていました。現在ホームヘルパーを派遣されている人はほとんど無料ですが、介護保険制度では一律に一割負担になります。収入の少ない人に優しかった制度が厳しくなったようですが、低所得者への対応はどうなりますか。

 蒲原 介護保険制度は原則としてサービスの一割が自己負担ですが、負担額には一カ月当たりの上限があり、さらに低所得者には一般より上限額を低くしています。現在ヘルパーを利用している低所得の方には三年間、負担を三%にし、その後も段階的な引き上げで負担軽減を図っています。

 岡本 今までの福祉制度では、厚生年金が約二十四万円の平均的サラリーマンが特別養護老人ホームに入ると、約十七万五千円の自己負担があり、中間所得層に極めて厳しい制度でした。介護保険では、この階層は十一万円の負担減になります。ホームヘルプも仮に一時間九百円で毎日利用すると一カ月三万円ですが、介護保険では月三万円で三十万円の介護が受けられることになります。
 仮に、低所得者の中にどうしても払えない方が出た場合、自治体は何とかして補助すべきだと思います。問題は、民間を主としたサービス事業者と利用者との私的なお金のやりとりを、行政がどう助成するかの手法です。私が審議会の委員をしている市ではリバースモーゲージ、即ち自宅を担保に市が貸付しています。ほかにも無利子の貸付など、いろんなやり方があるはずで、それをしないのは市町村の怠慢なんです。

 二塚 次に、今までヘルパー派遣やデイサービスを受けていた人が介護不要と判定された場合や、元気な老後への対策にも、疑問が寄せられています。

 蒲原 自立と判定された方は、介護保険の仕組みではサービスが受けられなくなります。ただ、厚生省としては市町村が認定外の方に行う介護予防サービスをできるだけ援助します。そのための財源も従来から百億円程度ありましたが、今度から四百億円に拡充することを検討しています。市町村はこのバックアップを生かし、効果的な対応をしてほしいと考えます。

 米満 要支援手前から要介護度一くらいの人は注意しないと、寝たきりになることもあります。老後は社会的に孤立する傾向があり、生きがいもなくなりがちです。対応の一つとして、老人保健法による機能訓練事業などを十分に使いこなせば、予防介護になるかと思います。同時に、市町村が要支援者や、それより少し元気な方々に生きがいを持った生活を送れる工夫をしなければなりません。介護保険では認定外でも、デイケアに通えるのです。

 岡本 この議論で思うことに、いわゆる「閉じこもり」の現象があります。今のお年寄りの八割ほどは小遣いに不自由しないのに、なぜ閉じこもるのか。私が知るモダンなお年寄りは、「デイサービスで民謡を踊らされるからイヤ」と一度行ったきりです。戦後の民主主義を生き、車を持ち、旅行もしている高齢者に何を提供するのか、本腰を入れたリサーチが必要ですね。

 米満 施設で行うデイケアやデイサービスを一人一人に合わせ、「閉じこもり症候群」を防ぐにはどうすればよいのか。既存の施設に新たな機能を付け加えるのか、全く違ったものを違う場所に作るのか。いずれにしろ、対応できる人材は欠かせません。効率的な実現には、今ある施設や機能、関係者の経験を生かすことだと思います。

 星子 確かに今の高齢者のニーズは変化しています。今回の制度ではサービスを選べ、苦情も言えるとのことですが、特別養護老人ホームで言えば「待ち」があるんです。入所者は、入っている施設が合わなくても、ほかが空くまで一年半ほど待たされることがあります。そうなると苦情が言えない。第三者的機関でそうした問題をくみ上げて改善してくれないと、本当に選べるシステムではないと思います。

 蒲原 今のお話で、選べる制度の前提としての施設数がないことは、おっしゃる通りです。現在、各都道府県、市町村では介護保険の事業計画を作成中で、その中で必要な施設数がどんどん上がってきており、それに基づいて増えるのではないかと思います。

 岡本 実は一九八九年当時、特別養護老人ホームと老人保健施設で約十万ベッドしかなかったのが、十年で四十数万に増えました。しかし、各地の待機者リストの数は減っていません。最大の理由は日本の特養の場合、一度入居すると亡くなるまでの終生入居方式だからです。要介護一から三ほどで施設に入ったら大体、入居期間は十年から十五年ほどになり、いくら施設を作っても足りません。施設にはよほど重介護の人のみを入れ、軽快したらケアハウスへ移るなどを実行しないといけませんね。地域の中でステージに応じたサービスをしないと、現実的に選択は不可能になります。

 星子 私も取材をして、入るならケアハウスだと思いました。でも、熊本では知られていないから空いています。利用方法が分からず、せっかくの機能が使えていない。それから介護保険の導入で、医療や福祉に競争の原理が働くようになるのは素晴らしいことです。競争することで使う側もよく見て、知って、選んで、さらに使いやすいものにしていけたらと思います。

 二塚 最後に、介護認定への不服、施設や受けているサービスに対する不満、苦情を受け付ける窓口がほしいとの要望があります。

 蒲原 市町村が行った認定に不服がある場合、都道府県には別途に不服認定審査会があり、再審査を申請できます。また受けているサービスへの苦情は、都道府県単位の国民健康保険の連合会で対応します。ただ、実際には身近な市町村や都道府県の支所などで対応できればと思うのですが…。

 岡本 東京の品川区の場合、要介護認定への苦情は徹底して区で受け付けています。説明で納得できない時は調査員を変えて再審査するほど徹底しています。しかし、ごく日常的な介護サービスの苦情はどうするか。私は今、大阪で介護保険市民オンブズマン機構の立ち上げをしていて、これは研修を受けたボランティアのオンブズマンを各施設に派遣してトラブルのコーディネートをするものです。行政の公的処理機構のほかに、われわれ市民が自ら解決するスタンスを取らないと、こうした問題は解決しないと思います。

 二塚 これまでのお話から、介護保険の仕組みで仮に認定もれなどがあっても、住民が手を挙げて市町村に提案すれば、周辺の条件を整備するための財源も用意されていることが分かりました。市町村によってはまだ積極的な対応がないところもあり、皆さんにはぜひ、お住まいの市町村に声を上げてほしいと思います。介護保険はまだ手探りの状況が続くようですが、住民参加が大前提だけに皆さんがいろんな場で声を上げ、この制度がより充実した内容になるようお互いに努力したいと思います。