肥後医育塾公開セミナー

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平成11年度 第2回公開セミナー「公的介護と介護保険」

【講師】
(厚生省大臣官房政策課企画官)
蒲原 基道

『基調講演 「介護保険の特質と仕組み」』
 “サービスの給付”が基本


   私は介護保険制度づくりに携わってきた立場から、なぜ、この制度を採り入れることになったのか、ということからお話しします。
 近年、わが国では高齢者人口が増加し、欧米に比して人口に占める高齢者の比率が高く、高齢化のスピードも速いという特徴があります。現在、わが国の要介護者は二百八十万人ですが、この数字は二〇二五年には五百二十万人になると推測されています。家族形態では核家族化が進み、介護を行う人の八割は女性となっています。また、平均寿命が延びたことで介護期間は長くなり、介護する家族の方も高齢化が進んでいます。
 このような社会背景の中で、もはや家族だけでの介護には限界があり、社会全体で介護に対応する仕組みを作ろう、ということから介護保険制度が生まれました。ただ、今までも特別養護老人ホームやホームヘルパーの派遣などで、公的介護は行われてきました。しかし、財源が少なくサービスの量も十分ではありません。利用に関しても、役所への申請手続きが大変だったりして、病院への入院を選ぶ方が主になっていました。
 新たな介護サービス制度の導入に当たり、(1)保険料を徴収して行う社会保険方式(2)財源を税金に求める税方式―の二つの考え方がありました。結果的に(1)になった理由は、サービスの給付とそれに対する負担が連結している方が受ける側としても理解しやすいだろう、ということからです。また、税方式にした場合、所得に応じて受けられるサービスに違いが生まれるなどの恐れがあります。
 これまでの福祉政策では、公的介護は行政が必要性を判断して措置を行い、受ける側にサービスの選択の余地はありませんでした。しかし、介護保険制度はサービスを受ける側と供給者とが契約する点に特徴があります。つまり、サービスを選ぶことができるのです。そのためにはサービスに関する情報が提供され、サービス内容を評価したり、クレームを受け付けるシステムが必要になってきます。サービスを提供する事業者は、都道府県に申請してチェックを受けた後に指定されますが、利用者から選ばれることで互いに切磋琢磨し、提供するサービスがよりよいものになることが期待されます。
 さて、新しく始まる介護保険制度の仕組みは、地方分権の流れに沿ったものでもあります。というのも、この制度は半分は公費で、半分は保険料で賄われます。保険料を集めてサービスを給付する保険者は各市町村です。保険料の多寡はサービス内容と関連することになり、高い保険料で手厚いサービス給付をするか、あるいは安い保険料で少ないサービスを給付するかは、地域住民も参加して考えることになるからです。
 具体的な仕組みを説明しますと、介護保険への加入者は四十歳以上となっています。これは本人が老後を意識し始め、同時に親の介護についても認識する年齢に当たります。四月からの開始に向けて、すでに十月から要介護度の認定作業も進められており、若干の試行錯誤はあるものの、全体としては、うまく進んでいるようです。
 費用負担は、半分が公費と申しましたが、その内訳は国が二五%、都道府県と市町村が各一二・五%ずつで、残り五〇%が加入者が払う保険料になります。加入者は四十歳以上六十五歳未満と、六十五歳以上の二つに分けられ、前者は本人が加入している医療保険の保険料と併せて介護保険料を払います。後者は市町村が保険料を集めることになっていますが、一定額以上の年金を受給している人は、年金から天引きになります。
 ところで、家族が行っている介護を、どう評価するかという問題があります。これには自民党より慰労金の案が出され、厳しい条件付きの下で認めることになりました。しかし、あくまでも例外であり、介護保険は現金給付ではなくサービス給付が基本の考えです。
 介護保険制度は、年金保険、医療保険に続く第三の社会保険として、わが国の社会保障制度の中で画期的なシステムといえるものです。四月からの施行に向けて、皆さまのご理解、ご協力をよろしくお願い申し上げます。