肥後医育塾公開セミナー

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平成11年度 第1回公開セミナー「動脈硬化と心臓・血管病」

司会・講師

【講師】
(京都大学大学院医学研究科教授)
北 徹

演題:基調講演 「動脈硬化」はどの様にして起こる?
    【講師】
    (京都大学大学院医学研究科教授)
    北 徹

    演題:基調講演 「動脈硬化」はどの様にして起こる?
【講師】
(東京大学大学院医学研究科教授)
大内 尉義

演題:基調講演 「高齢化社会を生きる」
    【講師】
    (東京大学大学院医学研究科教授)
    大内 尉義

    演題:基調講演 「高齢化社会を生きる」

セミナーの内容

  肥後医育塾の平成11年度第1回公開セミナー((財)肥後医育振興会・(財)化学及血清療法研究所・熊日主催、熊本大学医学部・県・熊本市・県医師会・(財)熊本テルサ後援)が7月31日、「動脈硬化と心臓・血管病」をテーマに、熊本市水前寺公園の熊本テルサで開催された。
 セミナーでは、京都大学大学院医学研究科教授の北徹氏が「動脈硬化はどの様にして起こる?」、東京大学大学院医学研究科教授の大内尉義氏が「高齢化社会を生きる〜心臓と血管を守ろう〜」と題して基調講演。このあと「沈黙の病気をいかに克服するか」と題したパネルディスカッションが開かれ、北、大内両氏のほか、熊本大学医学部循環器内科講師の久木山清貴氏、国立熊本病院内科医長の小堀祥三氏をパネリストに、同大学医学部生化学第二講座教授の堀内正公氏の司会で進められた。

「動脈硬化と心臓・血管病」をテーマに開催された公開セミナー

パネルディスカッション

パネルディスカッション
「沈黙の病気をいかに克服するか」


パネリスト
久木山清貴氏(熊本大学医学部循環器内科講師)
小堀 祥三氏(国立熊本病院内科医長)
北   徹氏(京都大学大学院医学研究科教授)
大内 尉義氏(東京大学大学院医学研究科教授)
コーディネーター
堀内  正公氏(熊本大学医学部生化学第二講座教授)


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●悪玉コレステロール 数値下げる治療必要…北氏

●高血圧に厳しい基準 一定レベルの保持を…小堀氏

 堀内 パネルディスカッションでは、参加者の皆さんから寄せられた高脂血症、高血圧、肥満などに関する質問を基に、動脈硬化を広い意味から考えて討論していきます。まず、七十歳の女性の質問です。二十年前から高脂血症があり、最近のコレステロール値は二六〇〜二八〇だが、動脈硬化や心疾患を心配する必要があるのか、ということです。このコレステロール値は、どう考えたらよいのでしょうか。

 久木山 今までの疫学的な調査からは、一般にコレステロール値が二三〇以上になると狭心症などの発症率が非常に高くなります。コレステロール値が高い人は、その数値が単独で高いだけでなく高血圧など他の症状も併せ持つ場合が多く、体質改善や薬物投与が必要と思われます。

 北 医者からコレステロール値が高いと言われた場合、LDL(悪玉コレステロール)が一四〇以上なら危険だと思ってください。ただ、LDLが高くてもHDL(善玉コレステロール)が高ければ治療は必要ありません。HDLが当人にとって本当に“善玉"かどうかは、まだデータがないのですが、動脈硬化に悪いのはLDLの方なので、LDLが高いと治療が必要になります。
 LDLが血液中に多いと、水道管がサビるようにLDLは活性酸素によって酸化されます。酸化されたLDLは、動脈硬化に悪いことが分かっています。LDLが高い場合は、それを下げると同時に、抗酸化作用のある食物をたくさん食べたり、危険因子がいくつか重なった人には、抗酸化剤の処方も極めて有効です。

 堀内 コレステロールが高い場合、LDLが高いのか、HDLが高いのかを把握するのが重要ということですね。次に、遺伝的にコレステロールが高い病気について、ご紹介ください。

 小堀 家族性の高脂血症と、同じ血縁者の中で中性脂肪も高いといった複合型の高脂血症が挙げられます。家族性の高脂血症は五百人に一人、複合型の高脂血症は二、三百人に一人くらいですが、そういう人たちがコレステロール値が高い場合は、やはりある一定の目的の数値まで下げることが必要です。食事療法や運動、それでも目標値に達しないときは薬の投与やライフスタイルを変える必要があります。

 堀内 動脈硬化について、肥満の関係から中性脂肪が高いことも危険因子の一つか、と思われますが−。

 北 コレステロールにはいわゆる善玉と悪玉、それに悪玉の前駆体であるVLDLがあります。コレステロールと中性脂肪は肝臓で作られ、血液中をリポたんぱくによって運ばれます。そのリポたんぱくの中にLDLとHDL、VLDLがあり、まずVLDLが肝臓で作られて血液中に運び出され、その中の中性脂肪が筋肉や心臓のエネルギーとして使われます。残ったコレステロールを含むVLDLは他の組織に行き、このコレステロールが使われます。
 コレステロールが悪いのか、中性脂肪が悪いのかというと、両方よくない場合があります。VLDLとして血液中から運ばれた中性脂肪が、筋肉などで使われると、だんだんその中間体が血液中に増えていき、動脈硬化の恐れが出てきます。その典型が糖尿病です。糖尿病があって中性脂肪が高い人は、食事療法や糖尿病の是正、必要によっては薬物投与など治療が必要です。中性脂肪が高いと言われた人は、糖尿病ではないかということを常に意識してください。

 小堀 中性脂肪が高い場合について悪玉のリポたんぱくのことが出ましたが、中性脂肪が一二〇を超えるとLDLの大きさがさらに小さくなります。小さくなると普通の悪玉より酸化がもっと早くなり、非常に動脈硬化になりやすくなります。それで、糖尿病などで中性脂肪が増えてくると治療が必要になります。
 私が大学にいたとき、糖尿病の患者さん四百人を調べると、高脂血症が六三%で、その中で何らかのかたちでコレステロールが高い人も四〇%以上いて、糖尿病の人は高脂血症も多いということが分かりました。国立熊本病院でも、一年間に心筋梗塞で訪れた三十五人を調べたところ、糖尿病が四〇%、高脂血症が同じく四〇%、高血圧が五一%でした。逆に見ると、そういう要因があると動脈硬化になりやすいわけです。

 堀内 次は、動脈硬化と関係深い高血圧についてです。高血圧で十五年間、服薬しているという六十歳の女性は、長年の服用を心配しておられます。

 小堀 高血圧は以前は最高血圧が一六〇、最低血圧が九〇でしたが、現在では上が一四〇と厳しくなっています。外国の大規模な臨床試験で、軽度の高血圧でも下げたほうが心臓死が少なくなると分かったからです。最近では、糖尿病がある高血圧の患者さんは上を一三〇、下を八五以下とする、より厳しい基準になっています。ただ、その人の血圧を無理に下げているので、循環中の血液の流れがだんだん変化してくるし、心臓にも影響すると思うので、長年、服薬した薬は違うものに変える必要があるでしょうが、血圧を一定のレベルに保つのは大切です。

 堀内 心筋梗塞に関する質問が一番多かったのですが、どんな治療があるのか概略をお願いします。

 久木山 心筋梗塞の治療方法は急性期と慢性期で違います。急性期では薬の投与で血管のつまった部分を広げたり、風船療法(PTCA)といってカテーテルの先につけた風船で広げたりします。慢性期では、やはり薬物や、つまった血管を再構築するための風船療法や外科的療法が中心となります。

●更年期と動脈硬化 ホルモン補充で予防…大内氏

●改善は各人の努力で 積極的な気配り大切…堀内氏

●薬の投与続く心臓病 食事・運動療法も併用…久木山氏

  堀内 PTCAをした後、またつまるのではないかという声が聞かれます。

 久木山 治療後、再び血管が細くなる人は十人中三、四人出ます。再び狭窄(さく)が起きやすいのは、高脂血症、高血圧、糖尿病、喫煙のある人たちで、やはり危険因子を取り除くことが重要です。

 堀内 現在、コレステロールを効率的に下げる薬がありますが、狭心症の発作を起こした人や、心筋梗塞の診断を受けて毎日薬を飲んでいる人から、薬は一生飲む必要があるのか、という質問が届いています。

 久木山 コレステロールの低下療法は、患者さんのバックグラウンドによって随分違います。心臓の病気で外来に来られる人は、もともと薬の数が多いので、私はあまり薬を出さずに食事・運動療法を勧めています。それでも下がらなければ薬を出し、並行して食事・運動療法もやっていきます。それによって薬は一定のレベルでもコレステロールが下がることもあります。

 北 遺伝的なバックグラウンドでコレステロールが高い人には一生、薬を飲んでください、と言わざるを得ない。それから日本人のデータではないのですが、一度、心筋梗塞を起こした人は、できるだけコレステロールを下げるケアが必要だという結果が出ています。二度目の発作を抑えるために薬を飲まなくてはならないでしょう。別に全員に薬を使う必要はないですが、医者が薬を使わなきゃいけないと決めたら患者さんに納得していただくのが基本かと思います。

 堀内 女性は更年期にコレステロールが高くなることがありますが、女性ホルモンと動脈硬化について要点をお聞かせください。

 大内 女性は五十歳を中心にして四十五〜五十五歳の間に急激に女性ホルモンが分泌されなくなり、いわゆる更年期を迎えます。それによって、のぼせ、イライラ、顔が突然赤くなる、失禁などの症状が起こってきます。五十歳から十年ほどたつと動脈硬化や骨粗鬆症が起こってきます。そこへ薬として女性ホルモンを外から補充するのがホルモン補充療法です。
 この治療のよい点は、のぼせやイライラなど更年期障害の症状が完全に消え、肌がきれいになり若々しくなります。骨も丈夫になり動脈硬化の予防にもなります。確証はないのですが、最近ではアルツハイマーの予防にもなるといわれています。悪い点は、せっかく生理がなくなったのに再び始まること。深刻なところでは、乳ガンになる確率が少し増えるという欠点があります。しかし、ホルモン補充療法を受けるときには、乳ガン検診を定期的に必ず行うので早期発見につながり、むしろ死亡率は低いといわれています。

 堀内 治療法について、運動療法、食事療法でどれくらいコレステロールが下がるのでしょう。具体的な目安はありますか。

 久木山 一日三十分くらいの散歩やダイエットで一〇%程度コレステロールが下がることはあります。患者さんには、薬と運動、ダイエットなどを併せて二〇%ほど下がる可能性もあると励ましています。

 堀内 今回のタイトルに、沈黙の病気とあるように、動脈硬化は症状として“見えにくい"ところがあります。そこで、目で見て確認できないものか、という質問が来ています。

 久木山 私は心臓を扱っているので、動脈硬化の確認は造影検査が頼りです。動脈硬化が一番起こりやすい血管は心臓を養っている冠状動脈と、内径動脈だといわれていますが、数年前からこの内径動脈にどれくらい動脈硬化があるかを簡単な超音波検査で調べられるようになりました。スクリーンに映して見られ、五分程の痛みもない検査です。保険も効きます。

 大内 できるだけ苦痛の少ない方法で、いかに精密な画像が得られるか。それが課題です。例えば、静脈に注射で造影剤を入れてそれが冠状動脈に行ったところを映すとか、脳の検査で使うMRAを心臓でも使えるようになれば、将来的に寝てるだけで外から分かるようなるかもしれません。

 堀内 沈黙の病気をいかに克服するかは、かなり見えるようになってきていますが、結果的にこの病気を克服するのは皆さんの努力であり、積極的な気持ちのようです。本日は、ありがとうございました。