肥後医育塾公開セミナー

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平成11年度 第1回公開セミナー「動脈硬化と心臓・血管病」

【講師】
(東京大学大学院医学研究科教授)
大内 尉義

『基調講演 「高齢化社会を生きる」』
?心臓と血管を守ろう?


   中高年には、心臓や血管の病気が多く、中でも大きく占めるのが動脈硬化です。これは血管にコレステロールその他がたまって内腔が狭くなっていくもので、心臓の冠状動脈に起こると狭心症や心筋梗塞、脳動脈に起こると脳卒中、大動脈では大動脈瘤、大動脈解離を引き起こしたりします。
 動脈硬化には次のような「十大危険因子」が挙げられます。
 (1)高コレステロール血症(2)糖尿病あるいは糖尿病予備軍(3)高血圧(4)肥満(5)喫煙(6)高尿酸血症(痛風)?の六つに関しては、よい薬が開発されたり生活習慣を変えることでコントロールが可能です。また、(7)ストレスを感じやすい性格の人(8)加齢(9)男性であること(10)閉経後の女性?も要因となります。
 (9)(10)を説明すると、生理がある女性にはエストロゲンという女性ホルモンがあり、これが動脈硬化になるのを防いでいます。
 ところで危険因子が重大なのは、それが重なるごとに動脈硬化の危険性が著しく高くなることです。例えばコレステロール値が高い人は低い人より四?九倍、心筋梗塞を起こす可能性が高くなります。それに糖尿病や高血圧が加わると二十三倍になり、たばこも加わると六十倍になります。逆に考えると危険因子を一つ減らすだけでも、かなり効果があるわけです。
 気をつけたいのは、ただコレステロールが高い、血圧が高いだけでは症状が何も起きない点で、長年その状態が続いて動脈硬化が進み、狭心症や心筋梗塞を起こして初めて気づくことです。
 最近、肥満の研究で二種類のタイプがあることが分かってきました。一つはお腹に脂肪がついた内臓脂肪型肥満で、もう一つはお尻に脂肪がついた皮下脂肪型肥満。動脈硬化を起こしやすいのは圧倒的に前者のほうです。動脈硬化はライフスタイルが大きくかかわってくる病気であり、この病気を予防し進行させないためには、食事や運動など生活習慣の是正が大切になります。
 そこで、どんな食事がいいかというと、腹八分目に食べ、高カロリー、高コレステロール、飽和脂肪酸、高食塩を避けます。コレステロールの多い食品である卵黄、霜降り肉、モツ、乳製品などの取り過ぎには注意します。
 逆にカルシウム、マグネシウムなどのミネラルや、動脈硬化を抑える働きがあるビタミンCやE、植物性のエストロゲンを含む大豆や、その加工品の納豆、豆腐、不飽和脂肪酸を多く含む青い魚は積極的に取ってください。繊維分の多い食品は、コレステロールの吸収を妨げ、大腸ガンを予防する働きがあります。カボチャ、ホウレンソウ、ニンジン、タケノコ、キノコ、ヒジキ、寒天、昆布などが繊維を多く含んでいます。
 次に控えたいのが、中性脂肪の摂取。中性脂肪は菓子やジュースなど甘いものから作られます。塩分の摂取も高血圧の人は一日に七?八グラムを目標に。お年寄りは脱水を避けます。血液が濃くなると脳梗塞の引き金になったりするので、朝コップ一杯の水やスポーツ飲料を取るようにします。骨粗鬆症を防ぐカルシウムも、高齢者は一日に九百?千ミリグラム必要です。
 運動不足とたばこも動脈硬化にはよくありません。運動は肥満や高コレステロール、高血圧、骨粗鬆症などの改善に効果があります。また、適度なアルコールはストレス解消によいとされ、ポリフェノールが多い赤ワインが話題ですが、ポリフェノールは緑茶やウーロン茶にも含まれており、無理に赤ワインを飲む必要はありません。
 最後に、お医者さんの上手なかかり方ですが、生活習慣病では急を要する場合を除いて、いきなり薬は出しません。生活指導に時間を割き、薬についても十分な情報を教え、緊急事態に対応してくれる医師がよいと言えるでしょう。
 逆に医師からのお願いでは、生活習慣を変えるには苦痛が伴うことを承知しておいてください。また、高血圧、高コレステロール血症は一時的に薬で下げるものではなく、必要ならずっと飲むものだとの前提でいてください。数値が下がったから通院をやめるのは間違いだと、申し上げておきます。