肥後医育塾公開セミナー

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令和7年度 第1回公開セミナー「進化する診断テクノロジーの世界」

【講師】
熊本大学病院病理診断科教授・部長
三上 芳喜

『【講演3】細胞から病気を診る−変わりゆく病理診断 病理診断に最新技術活用』


  まず知っていただきたいのは、「最適な治療には正確な病理診断が必要である」ということです。患者から採取された組織の形態を顕微鏡で観察することによって病気の状態を把握し、病理診断を決定します。
 それを行っているのが病理専門医です。目的は治療方針の決定、治療の効果の判定、さらに追加治療が必要かどうか、予後の推定−などに重要な情報を提供することです。
 人の体は約37兆個の細胞で構成されていて、日々入れ替わっています。細胞分裂の際、増える一方で、細胞死という現象が起こっています。これが制御されている状況で体の恒常性が維持されているのです。それが破綻することで起こる疾患ががんです。
 がんは遺伝子の異常によって細胞が不死化しどんどん増殖する疾患です。細胞の増殖を制御する遺伝子、それから細胞死を誘導する遺伝子などに傷が入ることによって発生します。腫瘍といっても、良性と悪性(がん)があります。細胞がただ増えているから即、悪性ではなくて、細胞の形や配列などの特徴を捉えて良性か悪性かを判断します。
 がんにはさまざまな診断方法があります。遺伝子も調べます。腫瘍がどういうタイプなのかという診断を確定するための遺伝子検査がその一つで、特徴的な遺伝子異常を有するがんを見つけることでタイプが分かります。もう一つ、治療を目的とした遺伝子検査も非常に重要です。
 「がんゲノム医療」という言葉を聞いたことがありますか。標準的な治療がない、あるいは標準治療が終了した患者を対象に病理診断に使用したがん組織で「がん遺伝子パネル検査」を行い、多数の遺伝子を同時に調べて治療を選択する。それががんゲノム医療です。熊本大学病院では2019年から実施しています。
 画像解析もどんどん病理の世界に入っていて、当然AIも視野に入ってきています。病理標本を丸ごとデジタル化する「ホールスライドイメージング」、あるいは「バーチャルスライド」と呼ばれる技術があります。これを使って例えば天草にある病院などと結んで、大学病院にいるスタッフが診断をするということが可能になっています。これは特に「術中迅速診断」で大きな力となっているツールです。手術中に手術方法、切除範囲などを決定するための病理診断で、標本を5〜10分程度で作成して行います。「質量分析」「顕微鏡内視鏡」「レーザー内視鏡」などの新技術もどんどん入ってきています。技術革新によって病理診断、ひいては医療が進化しているというお話をいたしました。