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『【講演2】破傷風、身近な危険を探る!』
広く土壌に存在して多様
破傷風は紀元前の記録に登場するほど古くから知られた疾患です。破傷風菌が傷口から侵入して傷がふさがると毒素を出し、口が開かなくなる「開口障害」などの神経まひを引き起こします。毒素は世界で2番目に強いとされ、治療が遅れると死亡率は40〜60%に達する恐ろしい感染症です。
破傷風菌を顕微鏡で見ると、太鼓のバチやマッチ棒のような形をしています。先端が丸く膨らんでいるところが「芽胞」と呼ばれるものです。べん毛を持ち、回転させながら移動することができます。酸素があるところでは休眠状態にあり、熱に強く、加熱してもなかなか死滅しません。ショックを与えると発芽し、増殖を始め毒素を出します。
日本の破傷風患者は、年間100人以上と先進国の中では比較的多く、50歳以上が全体の90%近くを占めています。犬にかまれた、ケガをしたことなどが原因として挙げられます。
ワクチンが未接種だったり、接種履歴が不明だったりする患者さんが多いのも特徴です。2011年の東日本大震災時には、震災に関連する症例が一年間にわたって報告されたこともありました。
私は熊本での破傷風感染リスクを科学的に評価するため、土壌サンプルを集めて解析してみました。
県内46カ所の土壌を採取して培養し、そこから破傷風菌だけを分離して検査を行いました。その結果、約7割相当の33カ所の土壌で破傷風菌を確認。これらの土壌から採取したサンプル265検体の約半数から破傷風菌を分離しました。
さらに今回、熊本で採取・分離した破傷風菌を詳細に分析。過去に国内で環境や動物から分離された34株と、世界で登録されている36株を加えてゲノム解析を行い、それぞれの株が出す毒素の量の違いを調べました。
その結果、毒素の程度が「非常に高い」から「毒素を全く出さない」まで四つのグループに分類しました。非常に高い毒素を出す株には感染しやすい可能性が示唆され、そのほか、抗菌薬に耐性のある菌が5株存在していたことも分かりました。
破傷風の感染リスクはまず「けが」が挙げられます。特に汚れた環境でくぎや刃物でけがをした場合は、すぐに傷口の手当てをお願いします。不衛生な状況も感染リスクを高めます。破傷風ワクチンの接種は発症予防に有効とされています。「ワクチンは健康を守る最前線」と、覚えていただければ幸いです。