肥後医育塾公開セミナー

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令和6年度 第1回公開セミナー「がんの原因となるウイルス」

【講師】
熊本大学病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 講師
宮丸 悟

『【講演B】中咽頭がんとヒトパピローマウイルス』
男性にも望まれるHPVワクチン接種


  近年、「ヒトパピローマウイルス(HPV)」の感染が原因の中咽頭がんが増えており、患者全体の30〜60%がHPV感染によるものと推定されています。 HPVは扁桃の表面にある「陰窩」という細かい溝から侵入すると考えられています。感染しただけでは発症に至らず、免疫機能によって約90%は排出されます。HPVに継続的に感染することでがんが発症すると考えられています。
 中咽頭がんはHPVが原因のものと、ウイルスとは直接関係なく喫煙や飲酒が原因で発症するもの(HPV非関連がん)に分けられます。HPV関連の中咽頭がんの危険因子は性行為で、30〜50代の比較的若い方に多いのが特徴です。HPV非関連がんは60〜70代の高齢の方に多いとされています。どちらも男性が3―4倍多くなっています。近年は喫煙者や一人当たりの飲酒量の減少により、HPV非関連がんは減少傾向にあります。一方、HPV関連中咽頭がんは増加しており、性活動の活発化や多様化が背景にあると考えられています。
 HPV関連中咽頭がんは、非関連がんに比べて病気が治りやすく、再発もしにくいと考えられています。ただ、喫煙者や高齢者、治療時に病状が進行している場合は治りにくいという特徴があるので注意が必要です。
 関連がんも非関連がんも治療内容は同じで、嚥下や発声などの機能をできるだけ残すことを考えます。具体的には@機能が残せる場合は手術を選択A手術で機能を失う場合は放射線治療と化学療法を組み合わせるB放射線と化学療法で治せない場合、ある程度機能を犠牲にして手術を選択―という判断をします。
 最後にワクチンの話ですが、現在日本では、子宮頸がんの予防を目的に、小学校6年〜高校1年相当の女子を対象に公費でワクチン接種が行われています。米国ではHPVワクチンの定期接種によって子宮頸がんが減少したのに対して、男性のHPV関連中咽頭がん患者が増加したため、2020年から男性にもHPVワクチンが保険適用されました。22年時点で男性へのHPVワクチン接種が公費補助されているのは、世界50カ国以上に上ります。日本でも男性へのワクチン接種の助成、普及が望まれます。