【講師】 |
『【講演A】肝がんと肝炎ウイルス』
肝炎ウイルスを治療して肝がん予防へ
熊本県は全国的にみても肝がん粗死亡率が高い地域です。その理由の一つに肝炎ウイルス感染者が多いことが挙げられます。主な肝炎ウイルスには「B型」と「C型」があり、感染後の経過や治療法が異なります。
B型肝炎は乳幼児期の母子感染、成人期の感染で経過が異なります。乳幼児期の感染は慢性化する傾向があり、肝硬変や症状が出ないまま肝がんになる人もいます。一方、成人期の感染は多くが無症状ですが、感染者の20〜30%で急性肝炎、そのうち1〜2%が重症の劇症肝炎を発症し死に至ります。また近年、慢性化しやすい型のウイルス感染者が増加しています。
B型肝炎の治療には@免疫力を高めてウイルスを排除するインターフェロン製剤Aウイルスの増殖を抑える核酸アナログ製剤―を使います。熊本大ではB型肝炎の新薬を開発中で、来年以降、人に投与し臨床データを集める段階になる見込みです。 一方、C型肝炎ウイルスに感染すると、最初は急性肝炎になります(多くは無症状)。そのうちの約30%は免疫がウイルスを排除しますが、残り70%は後に慢性肝炎や肝硬変を起こし、一部の人が肝がんを発症します。C型肝炎の治療には高いウイルス排除率を示す薬が登場し、高齢者や心臓・腎臓が悪い人、肝臓の機能が低下している人でも使用が可能になりました。
肝炎ウイルスの治療は急速に進歩しています。自治体などの無料検査を受けて早めに感染の有無を調べることが重要です。
肝炎ウイルスは血液、体液、唾液、汗などが傷口や粘膜に付着することで感染します。感染を防ぐには@鼻をかんだ後始末は感染者自身が行い、手洗いを徹底Aカミソリや歯ブラシなどの貸し借りをしないB乳幼児に口移しで食べ物を与えないCピアスの穴を開ける場合は医療機関で行う─などを心掛けましょう。感染対策と同時に、感染者の排除や差別につながらない配慮も必要です。
C型肝炎ワクチンはまだありません。B型肝炎ワクチンは母子感染予防など、対象者を絞って予防接種が行われてきました。2016年4月以降に生まれた人にはB型肝炎ワクチンの定期接種が公費負担で実施されています。それより上の世代は自費になりますが、積極的にワクチンを接種してください。