肥後医育塾公開セミナー

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令和6年度 第1回公開セミナー「がんの原因となるウイルス」

【講師】
熊本大学大学院生命科学研究部
血液・膠原病・感染症内科学講座 助教
七條 敬文

『【講演@】がんを引き起こすウイルスをご存じですか?〜九州地方に多い血液のがんを中心に〜』
ウイルス感染で起こる成人T細胞白血病


  がんは、正常な細胞にさまざまな原因で遺伝子異常が蓄積して発症します。原因としては喫煙や飲酒、食生活などがよく知られていますが、実は15〜20%は感染症が原因であり、発がんに高頻度に関連があります。
 がんの原因となるウイルスには、成人T細胞白血病(ATL)を起こす「ヒトT細胞白血病ウイルス1型」(HTLV‐1)、肝細胞がんを起こす「B型・C型肝炎ウイルス」、子宮頸がんや中咽頭がんなどを起こす「ヒトパピローマウイルス(HPV)」などが知られています。
 それらの中でHTLV‐1にスポットを当てます。
 感染者は世界で約2000万人と推定され、アフリカ中西部やカリブ海・中南米諸国に多い傾向があります。日本では約80万人が感染していると推定され、特に都市部で増えています。日本は先進国の中でも特に感染者が多く、世界最大のまん延国となっています。 HTLV‐1は「血液のがん」の一種であるATLのほか、脊髄炎や気管支炎などの炎症性疾患も起こします。感染しても90%以上の人が無症状ですが、約5%がATLを発症します。
 ATLは診断から死亡まで平均1年未満、4年生存割合11〜16%と非常に予後が悪い病気です。医学の進歩により、当院の最近の治療成績は70歳未満で4年生存割合が40%以上、70歳以上では新規治療薬の使用で4年生存割合が30〜40%程度と改善してきています。
 HTLV‐1の感染経路は、母乳摂取による母子感染と性交渉を介した感染がよく知られています。ATLは1977年に高月ら(後の熊本大教授)が提唱し、80年にHTLV‐1が米国で発見され、翌年に熊本大の日沼教授らがHTLV‐1とATLの関連を解明しました。91年時点の国内の感染者は約120万人と推定され、特に九州で多い状況でした。そのため九州内で新生児への完全人工栄養による予防策が行われました。しかしその後は全国に感染が広がり、2011年からは妊婦健診の際にHTLV‐1抗体検査が公費負担で実施されています。
 22年の感染者は全国で82万人。最近の鹿児島県の報告では感染の減少に伴い、ATLも減っています。しかし、まだ有効なワクチンがなく、感染予防の啓発活動が展開されています。