肥後医育塾公開セミナー

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令和5年度 第3回公開セミナー「サイレント・キラー(沈黙の病気)〜無症状のまま進行する怖い病気〜」

【講師】
熊本大学大学院生命科学研究部 産科婦人科学講座 診療助手
井上 尚美

『〈講演C〉卵巣がんをご存じですか?』
気軽に相談できる産婦人科医持って


  卵巣がんは、症状が出たときには進行した状態で見つかることが多いがんです。卵巣は通常、親指ほどの大きさですが、がんになると体内で最も大きな腫瘍をつくります。腫瘍の組織型(タイプ)はさまざまです。漿液性がん、明細胞がん、類内膜がん、粘液性がんなどの種類があり、組織型によって薬の効き方が違います。
 国内の卵巣がん罹患者数は1万3388例(2019年)で、死亡者数は4876例(20年)。いずれも増加傾向にあります。5年生存率は低く、がんが腹部全体に広がった状態のV期で54.1%、肝臓や肺まで広がったW期で36.3%という状況です。
 卵巣がんの初期は自覚症状に乏しいですが、腹囲の増加や腹痛、頻尿、食欲不振、下腹部のしこり、便秘などの兆候があります。卵巣がんのリスクは、一生の排卵回数が少ない人は低く、多い人は高いことが分かっています。@妊娠・分娩歴が多いA授乳期間が長いB低用量ピル使用―などの女性はリスクが低く、リスクが高いのは@妊娠歴がないA子宮内膜症があるB後述の遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)─の女性です。
 国のがん検診項目に卵巣がんがないのは、早期発見や死亡率抑制の方法がまだ確立されていないためです。早期発見が難しく「サイレントキラー」と言われています。卵巣がんの最終診断は初回の手術中に摘出した組織を顕微鏡で見て診断します。手術前には診断がつかないこともあります。
 手術と化学療法はセットで実施します。病気の程度や腫瘍の場所、広がり方は一人一人異なり、消化器外科や泌尿器科の応援で可能な限り完全摘除を目指します。化学療法は、基本的には手術後の再発予防や病気のない状態を維持するために実施しますが、腫瘍の量を減らす目的で手術前に行い、術後にも再発予防目的で行う場合もあります。
 最後に、遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)についてです。日本人の200〜500人に1人(0.2〜0.5%)が該当するといわれます。卵巣がんのうち10〜15%は遺伝性とされ、乳がん、前立腺がん、膵がんの発症率も高いことが分かっています。
 ご自身やご家族の既往から遺伝性のがんを疑うときは、遺伝カウンセリングを受けていただき、遺伝学的検査を行うことが可能です。HBOCとの診断に至れば、卵巣がん発症の確率が分かります。熊本大病院では、まず専門家の遺伝カウンセリングを受けてもらい、その上で、リスクに応じて予防的に腹腔鏡下手術で卵巣と卵管の切除(リスク低減卵管卵巣摘出術=RRSO)を実施しています。
 卵巣がんの早期発見のためにも、気軽に相談できるかかりつけの産婦人科医を持っておいてください。