肥後医育塾公開セミナー

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令和5年度 第3回公開セミナー「サイレント・キラー(沈黙の病気)〜無症状のまま進行する怖い病気〜」

【講師】
熊本大学大学院生命科学研究部 泌尿器科学講座 特任助教
穴見 俊樹

『〈講演B〉腎臓の病気〜慢性腎臓病(CKD)と腎がんは早期発見が大事〜』
クレアチニンと「eGFR」の値 確認を


  腎臓の機能に障害が起こると、体内に老廃物がたまって顔や手足がむくみ、貧血になり、骨がもろくなります。腎臓は背中側に二つあるので、痛みは背中側で感じられますが、厄介なことに、腎機能を喪失するくらい悪化しないと症状は現れません。
 腎機能の低下は血液検査で分かります。@クレアチニン(Cre、CRE)A推定糸球体ろ過量(eGFR)―の値です。@は高いほど、Aは低いほど腎機能が低下していることを示しています。
 腎臓の病気では、腎障害が慢性的に続く慢性腎臓病(CKD)が代表的です。患者数は2012年時点で1330万人。成人人口の8人に1人(約13%)に上ります。悪化した腎機能は回復しないため、進行すると人工透析や腎移植が必要になります。加えて、狭心症や心筋梗塞、大動脈疾患などによる死亡のリスクも高まります。
 健診などで腎機能低下が早期に分かるほど、食事や運動、高血圧、糖尿病のコントロールなどによりCKDへの進行を遅らせることができます。
 腎・尿路(膀胱を除く)がんは年間の罹患者が約3万人います。危険因子は喫煙や肥満、高血圧など生活習慣のほか、長期の透析や遺伝もあります。かつては、血尿、腰背部痛、腫瘤触知の三つが進行がんのサインといわれましたが、画像診断が発達した現在では、他の病気の検査時に無症状で小さな腫瘍が見つかるようになりました。
 腎臓にとどまっている限局がんには、基本的に手術療法を選択します。麻酔のリスクが高い人には腫瘍を凍らせる凍結療法を選びます。腎臓の外にがんが飛んでいる場合は、全身治療として効果が期待できる分子標的薬や免疫療法があります。
 腎がんの手術療法は大きく分けて、@腰背部の左右にある腎臓の一つを摘出する根治的腎摘術A腫瘍だけをくりぬく腎部分切除術―の二つあります。どちらを選択するかは、腫瘍の大きさや場所、年齢などを考慮して決めます。腎部分切除術は腎摘術よりも腎機能の保持に有利で、治療後の経過も良好です。腫瘍を取り残す可能性がある場合や、合併症リスクが高まっているときは、腎摘術を選びます。
 腎部分切除術は、熊本大病院ではロボットを使った手術を実施しています。手術する箇所を肉眼で見るように3次元の立体映像で確認できます。人の手以上の可動域で手術できる上、手ぶれも補正してくれるため、医師による精密な操作が可能です。
 腎臓病は特に自覚症状に乏しいため、血液や尿検査、超音波検査などで機能低下を早めに発見することが大切です。健診をぜひ、毎年受けてください。