肥後医育塾公開セミナー

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令和5年度 第3回公開セミナー「サイレント・キラー(沈黙の病気)〜無症状のまま進行する怖い病気〜」

【講師】
熊本市民病院 消化器内科 科長
階子 俊平

『〈講演A〉膵がんに注意すべき人と膵がんの治療法』
糖尿病がサイン? 膵のう胞なども注意


  がんは日本人の死因の中で最も多く、部位別に見ると、膵臓がんは、肺がん、大腸がん、胃がんに次いで4番目に多いです。「5年生存率」はわずか8.5%と、とても手ごわいがんですので、早期発見・早期治療が重要になります。
 2017年に報告された日本での早期膵がんに関する調査によると、全国14施設で06〜15年に診療された膵がんは6439例あり、そのうち切除例は全体の約40%でした。
 それでも、早期の膵がんであるステージT期までの患者は全体のわずか2.4%と、非常に少ない結果でした。
 膵がんは初期には無症状のことが多いですが、今回の調査でも腹痛や背部痛などの自覚症状があって診断された方は、早期膵がん例の約4分の1でした。
 発見のきっかけで最も多いのは、他の病気の経過観察中にたまたま見つかったというもので約半数を占め、健康診断などで発見されたものは、17%でした。しかしながら、早期例でも何らかの膵がん危険因子を保有する方が62%でしたので、まずは危険因子を知ることが重要です。
 膵がんの危険因子として知られているものには、糖尿病があり、糖尿病発症後1年未満の膵がん発症リスクは5倍以上です。また糖尿病治療中に、急に血糖コントロールが悪化した場合も膵がんが発生している可能性があり、要注意です。それ以外にも膵のう胞や慢性膵炎がある方、膵がんの家族歴がある方なども膵がん発生の危険度が高く、注意が必要です。
 膵がんの治療法には、外科手術、化学療法(抗がん剤治療)、放射線治療があります。根治の可能性があるのは一般的には手術のみですが、肝臓などに転移がある場合は手術の適応とはならないため、全身への効果が期待できる化学療法が治療の中心となります。手術可能な例でも、単独では再発することが多いため、術前・術後に化学療法を組み合わせることが主流になってきています。
 膵臓手術は大きな手術ではありますが、近年では大学病院などを中心に、体への負担が少ない腹腔鏡・ロボット支援下の膵臓切除も可能になっています。
 放射線治療、中でも粒子線治療は現在注目されている治療法の一つですが、転移がない例が適応となります。特に、がんが血管に巻き付き、手術での切除が難しい場合に有効なことがあります。
 それ以外にも自由診療として実施されている治療法などがあります。効果が十分に証明されていないものもあるため、そのような治療を希望される場合は、治療効果や副作用、費用などを事前によく確認し、その情報を本人だけでなく、家族とも共有しておくことが重要です。