肥後医育塾公開セミナー

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令和5年度 第1回公開セミナー「その頭痛や腰痛、放置していませんか?」

【講師】
熊本大学病院 整形外科 助教
谷脇 琢也

『【講演B】腰痛の診断〜危険な腰痛を見逃さないために〜』
腰痛発症の原因はさまざま 9項目の「危険信号」が指標


  国民の3〜4人に1人は腰痛持ちといわれます。腰痛といっても、足にも痛みやしびれが及ぶ場合もあります。日常生活に支障がある人は30〜35%、腰痛を繰り返している人が28.2%との報告もあります。
 腰痛経験は、男性は年齢に応じて高くなり、50歳代(64.7%)がピーク。女性も年齢とともに増え、50歳代(58.7%)と70歳代(59.3%)に2つのピークがあります。女性は骨粗しょう症と圧迫骨折の関連が考えられます。若年者では高校生全体の28%、大学生の39.5%に腰痛があり、スポーツが椎間板の変性を起こし、痛みにつながったと考えられます。
 腰痛の原因はさまざまです。脊髄腫瘍などの脊椎や神経由来、腎臓や尿路系・婦人科疾患など内臓由来、腹部大動脈など血管由来があります。ほかにも鑑別が難しいうつ病など心因性のほか、原因が特定できない非特異的腰痛があります。
 特に注意したいのは、若年層がスポーツをすることで腰椎に亀裂が入り起こる腰椎分離・すべり症。疲労骨折を起こしている場合は早期の治療が必要です。中高年は脊椎腫瘍や脊椎感染症、脊椎外傷(椎体骨折)などが要注意で、早期に治療をする必要があります。
 腰痛には重篤な脊椎疾患の合併を疑うレッドフラッグス(危険信号)が9項目あります。
 @腰痛の発症年齢が20歳未満か55歳超の場合A時間や活動性に関係がない腰痛B胸部痛を伴う腰痛Cがんやステロイドでの治療歴がある場合D栄養不良の場合E急激な体重減少Fしびれやまひ、痛みが広範囲に及ぶ神経症状G背中が曲がってくるなどの構築性脊柱変形H発熱の場合―です。
 Cのがん患者の場合は背骨への転移が考えられ、ステロイド治療は骨粗しょう症になりやすいため圧迫骨折が考えられます。Dの栄養不良は骨粗しょう症につながり、Eの急激な体重減少は悪性疾患を疑います。Fの神経症状は腫瘍などの神経を圧迫する病気が隠れている可能性があり、Hでは背骨への感染を疑います。
 最後に腰痛診断の流れを紹介します。まず詳細な問診と身体検査を行い、レッドフラッグスの評価をします。レッドフラッグスがなく神経症状がなければ痛み止めや湿布などの保存的治療で経過を見ます。改善がない場合、もしくは神経症状を認める際は、適切な画像検査を追加し器質的な異常がないかを評価します。レッドフラッグスを認める場合は最適な補助診断法を用いて、腫瘍や感染、骨折などの重篤な腰痛疾患について評価し、原因疾患に応じた治療を行います。
 腰痛にも危険な疾患が隠れている場合がありますので、注意してください。