肥後医育塾公開セミナー

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令和4年度 第3回公開セミナー「高齢者の「脳血管疾患」治療」

【講師】
阿蘇医療センター 院長
甲斐 豊

『【講演B】地域中核病院における脳血管疾患診療〜阿蘇医療センターの取り組み〜』
遠隔診断を県内初めて構築 搬送しながら治療が可能に


  阿蘇医療圏では脳血管疾患の専門医が不足しているため、かつては脳卒中が疑われる救急患者の多くが、熊本市内の病院に1時間以上かけて搬送されていました。2010年には脳梗塞の発症者11人のうち1人だけしか、規定時間内に血栓溶解療法を施すことができず、残念ながら多くの方に重い言語障害やまひなどが残りました。
 そのため熊本大学病院では翌11年から、私を含めた医師4人(脳神経外科、循環器内科、神経内科、リハビリテーション科)を阿蘇地域に派遣し診療を始めました。12年には専門医がいない時でも、携帯端末に送信された患者さんのCT画像から治療を判断できるようになり、県内初の遠隔診断の取り組みを構築しました。それに伴い、阿蘇地域から熊本市の高次医療機関に患者さんを搬送する間、血栓溶解療法の点滴をしながら搬送できるようになりました。
 14年に阿蘇医療センターを新築する際は、手術室で心筋梗塞に対するカテーテル治療もできる「ハイブリッド手術室」を設置してもらいました。年間40〜50例のカテーテル治療を実施しており、本院では現在、阿蘇地域の6割の救急搬送を受け入れています。19年には脳卒中治療ガイドラインが改定され、血栓溶解療法で血流が再開通しない場合は血栓回収療法を実施しなければならないことになりました。そこで、血栓溶解療法の点滴をしながら血栓回収療法ができる病院に搬送する「ドリップ(点滴)・シップ(搬送)・リトリーブ(回収)」の体制づくりが進められています。
 24時間・365日体制で血栓溶解療法ができる医療機関を「一次脳卒中センター」、同じく血栓回収療法ができる医療機関を「血栓回収脳卒中センター」、脳梗塞だけでなく脳出血やくも膜下出血に対する手術も対応が可能な「包括的脳卒中センター」に分類し、各医療機関の機能を有効活用できる体制づくりが必要になっています。
 ただ、患者さんを高次医療機関に搬送する際の見極めが困難という課題があります。そこで、脳血管疾患の病型を予測するため、救急隊の方に7項目のスコアをつけてもらう取り組みを熊本赤十字病院と共同で始めました。「Just‐7スコア」と呼び、兵庫医科大学で開発されたものです。@血圧A不整脈B共同偏視(目が片方に寄っている)C頭痛D構音障害(発音が正常でない)E意識障害F上肢のまひ─の7項目を救急隊が現場でチェックし、入力するとスコアが表示され、適切な医療機関に搬送する仕組みです。20年にスタートし、さらなる普及を目指しています。