肥後医育塾公開セミナー

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令和4年度 第2回公開セミナー「高齢者の『心疾患』治療」

【講師】
熊本大学大学院生命科学研究部 心臓血管外科学講座 教授
福井 寿啓

『【講演B】高齢社会における最新心臓手術と心臓リハビリについて』
運動・食事療法などを実践 手術後2〜3週間で退院も


  胸部外科学会の統計によると、心臓血管外科手術は全国で6万件以上行われており、その数は年々、増加しています。
 まず冠動脈バイパス術について紹介します。これは、血管が狭くなっている場所の下流部に新たに血管が流れる道(バイパス)をつくり、心筋への血流を増やす手術です。バイパスに用いられる血管はグラフトと呼ばれ、患者さん本人の体内から採取して使います。胸や胃、腕、足から血管を取り出すため、体を傷つけてしまいますが、人工血管よりも長持ちすることが分かっています。
 手術では、心臓を動かしたままバイパスをつくる箇所を固定し、拡大鏡を使ってグラフト血管を冠動脈につなぎます。冠動脈の太さは約1〜2_、グラフト血管は太さ1.5〜2.5_。太さ0.05_のポリプロピレン製の糸を針に付け、丁寧に、そして均等に血管を縫っていきます。
 次に心臓弁膜症手術について話します。心臓には大動脈弁、僧帽弁、肺動脈弁、三尖弁の4つの弁が付いており、弁膜症の中でも近年、高齢の患者が増えているのが、大動脈弁狭さく症や僧帽弁閉鎖不全症です。どちらも血液がうまく流れないようになる病気で、初期の頃は症状が現れないケースが多いです。
 大動脈弁狭さく症は、ある時突然息苦しくなり、胸に激痛が続き、失神する症状が出ます。薬では治らないため、弁を人工弁に取り換える手術をします。一方、僧帽弁閉鎖不全症は心房細動になり、息切れや脈が飛ぶなどの症状が出ます。心不全にならないよう、弁の悪くなった箇所を下から糸で引っ張り、堅くなって肥大した弁の一部を切り取って縫い合わせます。症状が悪化しないうちに手術をした人の方が生存率は高く、高齢でも手術が可能です。手術を受けた人ほど余命が長くなる傾向があります。
 大動脈瘤は、動脈の壁がこぶ状に膨らみ、破裂すると致命的な症状に陥る病気です。こぶの大きさが胸部大動脈で4.5a超、腹部で3a超になったものを大動脈瘤と呼びます。手術では、こぶ状になっている部分の血管を切除し、人工血管に取り換えます。
 心臓血管外科手術の後は、集中治療室で1〜2日間過ごし、経過が良ければ手術の翌日から食事ができるようになります。その後は一般病棟に移動し、心臓リハビリを開始します。手術後は体力が低下しているため、運動療法や食事などの生活指導を受け、運動量を徐々に増やしていきます。2〜3週間で退院し、かかりつけ医に診てもらうという流れになります。