肥後医育塾公開セミナー

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令和4年度 第2回公開セミナー「高齢者の『心疾患』治療」

【講師】
江南病院 糖尿病・内分泌内科 部長
河島 淳司

『【講演@】糖尿病患者が気を付けたい心疾患とは? 〜予防と早期発見のためにできること〜』
糖尿病と関連性強い心疾患 重要な血糖のコントロール


  心疾患とは、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患、心不全、不整脈(心房細動)といった、心臓に起こる病気の総称です。日本人の死因で、がんの次に多く、糖尿病との強い関連性が指摘されています。
 虚血性心疾患は、心臓に栄養を運ぶ血管である冠動脈の内腔が動脈硬化などで狭くなったり、詰まったりする病気です。糖尿病があると、虚血性心疾患の発症リスクは、ない人に比べて3倍ほど高くなります。症状として胸が締め付けられるような痛みや胸部の圧迫感が現れますが、糖尿病患者では虚血性心疾患を起こしても無症状のことがあるため、検査による早期発見が非常に重要となります。
 心不全とは、心臓のポンプ機能が破綻し、息切れや動悸、倦怠感、足などに浮腫が出現する病態をいいます。他にも夜間の頻尿や呼吸困難が起こり、ひどくなると横になって寝ることができない状態になります。心不全の危険因子は、高齢、冠動脈疾患の既往、慢性腎臓病などのほかに、糖尿病歴が長い、インスリンの使用、血糖コントロールが不十分―などが報告されています。
 心房細動は、心房がけいれんしたように細かく震えて血液を全身にうまく送り出せなくなる不整脈です。脈が飛ぶ、動悸がする、胸の苦しさを感じる、突然倒れる、といった症状が現れます。しかし、患者の約40%は無症状で、心電図を24時間身に着けて検査をしても不整脈が見つからないことがあるため、自宅で患者さん自身に脈を測ってもらうよう指導しています。
 心房細動の危険因子には、高血圧、糖尿病、肥満、睡眠呼吸障害、尿酸、喫煙、飲酒などが挙げられ、これらは他の心疾患の危険因子と多くが重なります。これらの心疾患の予防のためには、減量や減塩の食事、週150分以上の運動、禁煙などが勧奨されますが、血糖値を良好に保つことも重要です。
 血糖値を評価する検査として「HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)」が知られていますが、この検査は過去1〜2カ月間の血糖値を反映します。心疾患を含む糖尿病の合併症を防ぐためにも、この値が7%を超えないようにすることが大事です。ただし、糖尿病の患者さんが「重症低血糖」に陥ると、心血管疾患を引き起こす可能性が3.4倍、心不全が1.7倍高くなるといわれています。高齢者は低血糖を感じにくいため、インスリンなどの低血糖を起こしやすい糖尿病薬を使用中の高齢者は、HbA1cが低くなり過ぎないよう注意する必要があります。