【講師】 |
『【講演C】高齢者の血液がん治療 外来で行える治療の進歩』
新しい「分子標的薬」が登場 高額な医療費に大きな課題
血液のがんには、骨髄性白血病(急性・慢性)やリンパ性白血病(急性・慢性)、悪性リンパ腫などがあります。その多くは血液検査で見つけることができます。
白血病の診断は、骨盤に針を刺して骨髄液を取り、白血病細胞を調べて行います。急性の場合、無治療では肺炎などの重篤な感染症や脳出血などの致命的な出血を併発し、2カ月以内に死に至る可能性があります。
70歳未満の人に対しては主に強力な抗がん剤治療を行い、完全治癒を目指します。治療を始めると免疫力がなくなるため、無菌室に約1カ月入室して治療を行います。その後1カ月程度の入院を3、4回繰り返した後、治癒を目指して、他人の血液または骨髄を移植する「同種造血幹細胞移植」を行うため、無菌室に2、3カ月の入院が必要になります。
血液のがん細胞は抗がん剤に対する感受性は高いですが、正常細胞にも影響するため、吐き気や嘔吐、下痢、脱毛、しびれや便秘など全身に副作用が出ます。かなり危険な治療を行わなくてはなりません。
そうした強力な化学療法を高齢者に行うと、体力低下や臓器の予備力の低下、合併症などを招くため、これまでは積極的にはできませんでした。
そんな中、新しい「分子標的薬」が昨年登場し、治療法が全く変わりました。無菌室の使用は初回のみで、以降は外来治療が可能になりました。大変画期的なことです。そのため高齢でも治療を受ける人が増加。民間のがん保険は、入院だけでなく外来治療もカバーできるものが薦められるようになりました。
慢性骨髄性白血病についても治療法が大きく進歩。2000年までは骨髄移植をできる人以外は助かりませんでしたが、02年に分子標的薬(飲み薬)が登場し、その後も第2世代、第3世代、今年になって第4世代の薬が認可され、ほとんどの人が亡くならなくなりました。
高齢者を中心に増え続けている悪性リンパ腫の治療についても、再発に高い効果が期待できる「遺伝子改変免疫療法(CAR―T療法)」が登場するなど治療法が進歩し、予後が飛躍的に改善しました。
画期的な治療法が生まれた一方で、非常に高額な薬剤費を負担し続けなければならないことが問題となっています。
慢性骨髄性白血病では健康保険の負担割合が1割の人でも毎月4〜6万円かかります。保険適用となった薬価3300万円のCAR―T療法は今後、増えるとみられ、高額医療費制度の利用は必須となっています。
経済的負担を含めどこまで治療を行うのかを、関係者全員で話し合う人生会議≠ェますます重要になってきています。