肥後医育塾公開セミナー

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令和4年度 第1回公開セミナー「高齢者の『がん』治療」

【講師】
熊本大学病院 乳腺・内分泌外科
教授
山本 豊

『【講演B】ひとりひとりに合った乳がんの治療の進め方』
がんを4つのタイプに分類 体の状態に応じ治療法判断


   乳がんの罹患者は年々増え、女性がかかるがんの患者数は第1位、死亡者は3位です。高齢者の割合は約40%で、発症年齢は40代と60代に2つのピークがあるところが特徴的です。
 治療の進歩により、「ステージT」でがんを発見できた場合、5年生存率は95%。肺や肝臓に転移し根治できない「ステージW」でも38%に上ります。
 乳がんには、女性ホルモン「エストロゲン」を栄養に成長するものと、「HER2」というタンパク質の信号により成長するものがあります。それぞれ陽性と陰性に分けられ、この2つのタンパク質の有無で4つのサブタイプに分類できます。各タイプに合わせた治療を行うことで再発率が下がりました。
 高齢のがん患者に対する治療では、その時の体の状態や精神状態に応じて@非高齢者と同じ標準治療が可能A薬の投与量を減らした弱い治療なら可能B非常に弱い治療や対処療法なら可能―の3つの治療法のいずれを採用するか判断していきます。
 薬物治療はサブタイプに合わせ、ホルモン療法(内服薬)や、抗がん剤を使う化学療法、分子標的治療を行います。フィットな状態の元気な高齢者は副作用が起こることも十分考慮して、非高齢者と同じ標準的な治療を行うことになっています。
 外科療法(手術)については、80歳以上の乳がんに限ると、軽微な合併症は約30%、入院期間の延長や再入院が必要な重篤な合併症は約6%起こりますが、手術により死亡した人はいません。手術後に放射線治療を行うと、手術を行った場所の再発率が半分になり、死亡のリスクも下がります。
 高齢のがん患者は、複数の併存疾患を抱えている割合が高く、臓器機能が低下していることも多いため、治療に伴う副作用や合併症、後遺症などを起こすリスクが若い世代よりも高いことを覚悟しなければなりません。必ずしも若い世代と同じ治療を受けられないような場合に治療方針を導くための手法として、共同意思決定・共有意思決定(SDM)があります。患者さん本人が大切にしたいことを聞き出した上で医師が治療の選択肢について提案・説明し、患者さんと相談しながら一緒に治療方針を決める方法です。
 また現在の医療は、病院内外や地域を含めた多職種が連携して患者を支援するチーム医療で運営されるようになっていることも覚えておいてください。
 最後に、インターネットで「日本乳癌学会」を検索すると、「患者さんのための乳がん診療ガイドライン2019年版」をホームページで閲覧できます。ぜひご参考ください。