【講師】 |
『【講演A】高齢者肺がんの最新の治療:治癒とQOL(生活の質)向上を目指して』
新たな薬?開発進む化学療法 放射線治療の精度も高まる
国内の肺がん患者は年々増え続け、男性が10人に1人、女性は20人に1人の割合で発症しています。がんの種類別の罹患数を見ると、肺がんは男性4位、女性3位、死亡数は男性1位、女性2位です。初期に症状が出にくく遠隔転移した状態で見つかることが、死亡率が高い要因でないかと考えられます。
肺がんの主な原因は、たばこと高齢化です。日本人の喫煙者の割合は男性が27.1%、女性は7.6%です。受動喫煙の害もあります。喫煙者の肺がんと喫煙していない人の肺がんを比較すると、喫煙者は予後が悪く、治りにくく、死亡率が高い傾向にあります。
肺がんの罹患者は30代から増え始め、50歳を過ぎると年齢を重ねるごとに大幅に増加します。多くのがんと同様、高齢者の病気といえます。
肺がんの治療法には、まず化学療法が挙げられます。1980年代は、健康な細胞もがん細胞も一緒に攻撃する細胞障害性抗がん剤しかなかったため、強い吐き気や脱毛、白血球の減少で感染症に罹患しやすくなるなどの副作用がありました。2002年になると、ピンポイントでがん細胞を攻撃できる「分子標的治療薬」が登場しました。当初は副作用が問題視されましたが、一方で恩恵を受けた人も多くいました。15年には、がん細胞に対する人体の免疫機能を活性化させる画期的な「免疫チックポイント阻害薬」が認可され、肺がんの内科治療は3本柱に。また抗がん剤の副作用に対する制吐剤や血球数減少など、合併症に対する薬も開発され、患者さんのQOL(生活の質)が向上しました。
放射線治療は、以前は通常分割照射といって6週間かけて30回程度行っていましたが、90年代からは放射線のピンポイント照射により、正常な臓器へのダメージを低下させる治療が可能になりました。近年は体の深部のがんも狙える重粒子線照射も登場しています。
外科治療は、かつては胸を20aほど切開して肋骨を1本切り、両手を入れて手術をしていました。90年代からは胸腔鏡手術が普及し、傷口が8aから4aに縮小、2018年からはロボット支援手術が始まり、手術の傷口がさらに小さくなり、痛みもより少なくなりました。
肺がんは現在、画像で確認できるようになり、進行の速度が非常に速い、または遅いがんがあることが分かるようになりました。そこで、高齢肺がん患者に対しては、年齢や平均余命、過剰診断の可能性も考慮しながら、最後は患者本人の気持ちを尊重して治療方針を選択するようにしています。