【講師】 |
『【講演C】周産期医療と地域の関係について』
妊産婦の孤立化を防ぐ
妊産婦の死亡原因の中で、実は自殺が最も多いのです。2015〜16年にかけ計102人の妊産婦が自殺し、そのうち92人が出産後だったとの新聞報道もあります。また社会保障審議会が昨年8月に出した報告によると、乳児の死亡で最も多いのは生まれた日の虐待によるもので、加害者は母親なのです。死亡例の49.1%(28人)が0歳児でした。乳児虐待の背景には、望まない妊娠や計画していない妊娠、妊婦健診未受診、母子健康手帳の未発行、10代の妊娠─などの問題があります。その大きな要因は、妊婦の孤立化と考えられます。
妊娠すると、市町村へ親子健康手帳(母子健康手帳)の交付を申し込みます。これが大事な第一歩で、その後は自治体にもよりますが、定期的な妊婦健診をほぼ無料で受けることができます。妊婦健診では医療以外のサポートが必要な妊婦さんが見つかってきます。生活保護や住居などの経済的な支援、10代の妊娠の場合は教育や進学の支援、精神疾患を有する妊婦への支援、家庭内暴力(DV)問題を抱える人もいます。
「特定妊婦」という言葉をご存じでしょうか。出産後の養育を支援する必要があると市町村が認定する妊婦のことです。支援が必要な妊婦が抱える問題は複雑です。特定妊婦に関する情報交換や支援内容は、児童相談所や市町村、医療機関、保健師、学校、警察、性暴力被害者支援センター(ゆあさいど)などの担当者が集まる要保護児童対策地域協議会=「要対協」で協議されます。
しかし、医療機関を受診しておらず要対協が把握していない妊婦がいる現実があります。
若年妊娠の場合は、受診が遅れることが多いので、相談しやすくするために、18歳未満を対象とする中高生妊娠相談窓口を2020年11月に開設しました。健康保険証は必要なく、初診の妊娠検査料は無料です。家族への連絡もしません。妊娠が正常か異常かの診察までを無料で行っています。
福田病院では2017年から県の委託事業として、特定妊婦などへの支援強化を担うコーディネーターを置いて産前・産後母子支援を行うようになりました。妊婦が孤立しないようにするには家族の力が必要です。それに加え、家族がカバーできない分野については民生委員や地域の方々の声掛けや見守りによって支援していくことが重要になります。