肥後医育塾公開セミナー

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令和3年度 第3回公開セミナー「母と児の2つの命を守るために」

【講師】
熊本大学病院総合周産期母子医療センター新生児部門講師
岩井 正憲

『【講演B】新生児医療 〜赤ちゃんを守り育む最初の1歩〜』
出生のときが一番危険


  日本の新生児医療のこれまでの60年間の推移を見ると、出生数は3分の1に、新生児死亡数は120分の1に、同死亡率は40分の1に減少しました。その背景には1960年ごろから大病院を中心とした新生児室の開設や、85年の国の新生児集中治療管理室(NICU)などに関する基準策定、その後の新生児蘇生法の普及も死亡率減少につながったと考えられます。
 戦後、熊本県では新生児死亡率が全国平均を上回る状況でしたが、まず熊本市民病院にNICUが設置され、その後も2病院にNICUが設けられ、関係者の努力により新生児死亡率は大きく改善しました。県内4つの周産期母子医療センターでは役割が分担され、新生児医療の地域化が図られています。市民病院は超早産児、大学病院は先天異常や仮死、福田病院は呼吸器異常や早産児、熊本赤十字病院も早産児などと診療を分担し、それぞれにドクターカーも配備されています。
 本県では2020年に年間1万3011人が出生し、1497人の新生児が入院しました。そのうち885人は人工呼吸管理が必要だった新生児です。入院が必要となる背景には、低出生体重児が増えていることがあります。本県では極・低出生体重児と呼ばれる出生時に体重が1500c未満の新生児の比率が高い傾向にあります。出生の時が最も危険で、出生直後に自発呼吸ができず、人工呼吸や気管挿管などの蘇生処置を必要とする新生児は5%ほどいます。
 新生児医療の課題は、新生児専属医師が少ないこと、NICUでは看護師1人が新生児3人をケアしますが、重症児は看護師1人がつきっきりでケアするケースもあるため、看護師も不足している状況です。また精神疾患やうつ状態の妊婦、重症の子どもを持つ家族が抱える不安へ対処するために周産期心理士の配備も必要で、退院を前にした元気な赤ちゃんの面倒をみる保育士の確保も課題です。
 また、NICUに入院したハイリスク新生児への発達支援も必要です。保育器の中で子宮内にいるときと同じような姿勢で眠れるようにする、ご両親の面会機会を増やす、入院中や退院後のリハビリ、在宅医療の支援─などが必要です。今後は社会と新生児医療の関わりを増やすことが大切であると考えています。