肥後医育塾公開セミナー

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令和3年度 第3回公開セミナー「母と児の2つの命を守るために」

【講師】
熊本市民病院産婦人科産科部長
本田 智子

『【講演A】産科医療の立場から:母子ともに安全な出産をめざして』
大切な定期的妊婦健診


  日本産科婦人科学会が35歳以上で初めて出産する人を高齢初産婦と定義しているように、一般的に35歳以上の出産は高齢出産と呼ばれています。日本人の初産年齢は2015年に30歳を超え、その後も上昇を続けています。背景には結婚年齢の上昇のほか、体外受精など生殖補助医療の進歩があります。2019年には体外受精による新生児は14人に1人の割合となっています。
 高齢でも体外受精により妊娠、出産が可能になりましたが、高齢妊娠では流産や早産が増加する傾向にあります。母子に深刻な経過が予想される妊娠を「ハイリスク妊娠」と呼びますが、高齢妊娠のほかにもさまざまなハイリスク妊娠があります。妊娠前からの肥満や喫煙は、妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群のリスクが高いですし、妊娠前に子宮筋腫や子宮頸がんで子宮の手術を受けたことがある人は切迫流早産、帝王切開で出産した人が次の子どもを出産する場合は子宮破裂のリスクがあります。
 胎児側に何らかの問題を生じている場合もあります。染色体異常や胎児奇形、胎児発育不全などです。染色体異常ではダウン症が代表的で、30歳で出産した人の出現率は700分の1程度ですが、40歳では86分の1前後と8倍以上高くなります。子宮内の胎盤が産道を覆うため帝王切開が必要となる前置胎盤は出血のリスクが非常に高い合併症ですが、これも年齢とともに上昇することが分かっています。
 このようなハイリスク妊娠は早期に発見して管理することが重要です。そのためには妊娠初期からの定期的な健診が何より大切です。妊娠かもしれないと思ったら必ず産婦人科を受診し、正常な妊娠かを確認して、正確な分娩予定日の診断を受け、母子手帳をもらい、定期的に妊婦健診を受けてください。
 地域のクリニックの妊婦健診で合併症の疑いがある場合は周産期母子医療センターが紹介されますし、クリニックでの分娩で容態が急変した場合もマンパワーに優れた同センターへ母体搬送され、複数の専門医が連携して母子の命を守る治療が施されます。熊本市民病院には胎児心臓外来が設けられていて、産婦人科、小児循環器内科、新生児内科、小児心臓血管外科などの医師、助産師や小児専門看護師ほか、多職種連携による医療が行われています。