【講師】 |
『【講演@】周産期医療:2つの命を守るネットワーク』
連携して妊産婦を支援
児が胎外で生存可能となる妊娠満22週から出産後7日未満までの期間は「周産期」と呼ばれます。周産期医療とは母児2つの命の健康を助ける医療です。
日本は海外先進国と比較して小規模な分娩施設数が多いという特徴があります。施設が多いのは便利である半面、母児に命の危険が迫った場合の対応に限界があります。
そのため全国に、母体・胎児集中治療室(MFICU)や新生児集中治療室(NICU)を備えた「総合周産期母子医療センター」や、緊急帝王切開などに対応できる「地域周産期母子医療センター」が設置され、小規模分娩施設との連携が図られています。本県には「総合─」が熊本大学病院と熊本市民病院の2施設、「地域─」は福田病院と熊本赤十字病院の2施設あり、各施設が機能を分担し、連携しています。
現在母子医療センターの搬送受け入れはほぼ飽和状態が続いており、限られた施設をうまく運用すること、そもそも妊婦さんや新生児がMFICUやNICUに入らずにすむようにすることが重要な課題です。
搬送の場合は、胎児を妊婦さんごと搬送する母体搬送という手段が取られます。母体搬送により胎児を安全に搬送できるだけでなく、十分な評価を行って出産に備えることができます。
周産期死亡とは周産期に子供がなくなることで、周産期死亡率は国や地域における母子保健の指標です。
20年前まで熊本県にNICUは熊本市民病院1施設しかありませんでした。2002年に新生児死亡率が全国ワースト1を記録したのを契機にNICU、MFICUの整備が進められ、熊本地震が起きた2016年までの5年間は全国で最も周産期死亡率が低い県となりました。
出産の前後に妊産婦さんが亡くなることは過去1世紀の間に約100分の1に減少しました。感染症や出血によって亡くなる妊婦さんが激減する一方で出産とは直接関係のない理由で妊婦さんが亡くなることが相対的に増えており、近年は全国で年間約80人と推定される妊産婦の自殺が問題になりました。
精神的な不安を抱える妊産婦とその子どもの産後支援のため「子育て世代包括支援センター」が各自治体に設置されたほか、民間での支援のための取り組みも始まっています。妊産婦の不安を軽減して、より安全な出産と子育てができるよう、多様な職種が連携して支援していくことが求められています。