肥後医育塾公開セミナー

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令和3年度 第2回公開セミナー「「かかりつけ医」と「専門病院」の診療連携」

【講師】
イエズスの聖心病院 院長
木村 哲也

『【講演C】その人らしく生きる〜在宅での緩和ケア〜』
多職種連携のチームによる在宅療養の支援体制が重要


   熊本市西区にある当院では訪問診療を行うほか、がんの緩和ケアのためのホスピス病棟と慢性期の方を診る医療療養病棟を設置し、一般外来とがん患者の自宅療養を支えるため、がん療養外来(緩和ケア内科)などを設けています。2014年から実施している訪問診療は年々増加し、現在では訪問回数で年間600〜900回、訪問診療の患者数は年間100〜200人に上り、自宅でのみとりを希望する方が増えている状況です。
 在宅療養では訪問看護師による状態の確認やケアのほか、介護支援も大事で、ケアマネジャー、訪問介護による生活支援、福祉用具や福祉タクシー、薬剤師や歯科医の訪問など、さまざまな役割を持った人が連携し、療養者の様子を見守り、生活を支援することがとても重要になります。また、家族がそばにいることで本人は安心できるので、家族の存在が大きな力になります。その一方で急に容態が悪化した場合に備え、緊急入院できるようにしておくことも重要です。
 在宅療養やみとりを希望される方が独居者であっても、それを支えることは可能です。世間ではみとられることなく死を迎えることを「孤独死」と呼び、それを好ましくないと思われることもありますが、私はそれを悪いこととは捉えないで、本人の希望に沿って対応しています。ただし条件はあります。一人でのみとりとなる可能性があることを本人や家族が受け入れることや、亡くなった後の葬儀や住まいの後片付けなどを支援してくれる方(家族以外でも可)も必要です。
 厚生労働省の人口動態調査によると、在宅で亡くなる人は全国的に年々増えてきています。その一方で、熊本県と熊本市は共に病院で亡くなる方が多く、在宅死の多い順で47都道府県中44位、20政令市中17位の状況です。そのことの評価は脇に置いて、それが本県の状況です。
 穏やかに在宅で療養をしていただくには、不快な症状がないよう症状のコントロールをしっかりと行う、緩和ケアが重要になります。ただ、症状の緩和は目的ではなく、患者やその家族が安心して過ごすことができる環境を整えるための手段であると考えています。
 患者やその家族の不安をよく聞き、少しでも安心できるよう共に考え、寄り添います。必要なときにはいつでも医師、看護師などに連絡が取れるようにしておきます。
 私は本人や家族の方が希望される場所で希望される通りに、最期まで生きることを支えたいと思っています。緩和ケアも多職種によるチーム医療に支えられています。そうした連携がとても大事なことだと思います。