肥後医育塾公開セミナー

肥後医育塾公開セミナー
肥後医育塾公開セミナー

令和3年度 第2回公開セミナー「「かかりつけ医」と「専門病院」の診療連携」

【講師】
JCHO人吉医療センター
医療福祉連携室・がん相談支援センター
南 秀明

『【講演B】がんの循環型地域医療連携について』
「私のカルテ」で情報共有 循環型地域医療連携実現へ


   日本人の2人に1人ががんになる時代となり、慢性疾患としてのがんが増加しています。がんには再発の可能性があるので治療後は経過観察が必要になります。そのため地域のかかりつけ医とがん専門医が連携し、早期に再発を発見して治療を行う体制の整備が求められます。
 そもそも国は少子高齢化の医療・介護への影響に対して、高齢者が住み慣れた地域で最期まで自分らしい生活ができる地域包括ケアシステムを目指し、関係機関の連携整備を進めてきました。また、地域において急性期・回復期・慢性期までの治療を担う医療機関の役割分担と連携による地域完結型医療体制の構築を目指しています。
 がん診療については例えば、人吉球磨地域では人吉医療センターが地域がん診療連携拠点病院に指定され、登録医(かかりつけ医)からの紹介を受け、高度ながん専門医療を行います。そして治療後は、かかりつけ医に患者さんを返して交互にフォローします。リハビリが必要な方はリハビリ病院に転院、そのほか在宅療養や介護施設を利用するケースもあり、さらに専門医の治療が必要になれば、再度紹介を受けます。そうした連携の取り組みを「循環型地域医療連携システム」といいます。
 2006年にがん対策基本法が制定され、全国どこでも等しくがん治療を受けられるよう、基本的に複数の市区町村で構成される2次医療圏に1施設のがん診療連携拠点病院を設置してがん専門医を置き、標準的治療を行い、情報提供や相談支援の強化を図りました。特に「5大がん」といわれる胃・大腸・乳・肝・肺がんを中心に、専門医とかかりつけ医が治療経過に関する情報を共有する計画書「地域連携パス」を運用することになりました。それにより、かかりつけ医・専門医それぞれが担う医療に専念でき、負担軽減と医療の質向上を図ることが可能になります。患者は2人の主治医を持つような安心感を得られ、必要時は速やかに専門医療を受けられます。
 本県では統一した地域連携パスを「私のカルテ」と名付け、全国に先駆けて2010年3月に導入しました。これまで7900冊が利用され、県内20のがん拠点病院(専門医)、740の連携医療機関(かかりつけ医)で連携が行われ、薬局や介護福祉分野など患者さんに関わる多職種間の情報共有ツールにもなっています。
 今後も医療はさらに高度化・専門分化するでしょう。がんだけでなく脳卒中や心臓病ほか、さまざまな疾患への対応も求められます。循環型地域医療連携はICT化も伴って今後は一段と広域化が予想されます。