肥後医育塾公開セミナー

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令和2年度 第2回公開セミナー「あなたがもし「がん」にかかったら」

【講師】
熊本市立熊本市民病院 産科部長
本田 律生

『【講演B】がん治療と妊娠』
AYA世代の「がん・生殖医療」 心理的なサポートも不可欠


   近年はがん患者の生存率が上がっており、がんを生き抜いた方々を「がんサバイバー」と呼ぶようになりました。その一方、治療の影響で若くても妊娠する能力(妊孕性(にんようせい))を喪失してしまうことが知られています。
 以前は、それをやむを得ないこととしていましたが、現在では、国の第3次がん対策推進基本計画に「AYA世代のがん」という文言が盛り込まれ、「関係学会と協力し、治療に伴う生殖機能等への影響など、世代に応じた問題について、医療従事者が患者に対して治療前に正確な情報提供を行い、必要に応じて、適切な生殖医療を専門とする施設に紹介できるための体制を構築する」ことになりました。
 AYA世代とは「Adolescent and Young Adult」の略称で、15歳から39歳くらいの思春期後半からの生殖年齢に当たります。白血病やリンパ腫などの血液疾患が多く、20〜30代になると子宮頸(けい)がんや乳がん、卵巣腫瘍や精巣腫瘍などが増え、男性より女性のがん罹患(りかん)率が著しく高くなります。ちょうど就学や就職、結婚、出産、子育てなどのさまざまなライフイベントに直面する世代で、生殖機能への影響も考えなければなりません。そこで最近は、がんサバイバーとなって将来は赤ちゃんを持ってもらおうと、「がん・生殖医療」の考え方が登場してきました。
 世界初となる英国の「試験管ベビー」の誕生は1978年でした。日本では、2018年生まれの新生児のうち5万6979人が体外受精です。これは新生児の6%余りを占め、このうち4万7873人(約84%)は、受精卵を凍らせ適切な時期に融解して子宮に戻す方法で妊娠しており、凍結や融解の技術の進歩によって、がん治療の前に卵子や精子を凍結保存しておくことが可能になっています。
 ただ生殖医療が進む一方、がん患者は告知から間もないタイミングで、同時に数々の問題を理解し、不確実性の中で自己決定をいくつもしないといけません。そのため多職種(がん治療、生殖医療、看護、心理、行政など)連携による支援が求められています。熊大病院では2016年4月に「生殖医療・がん連携センター」を開設、がん診療拠点病院(県内19施設)や同病院を含む生殖補助医療実施施設(県内7施設)と連携したネットワークを構築しています。
 昨年8月には福岡県で九州初の凍結・融解技術を活用した体外受精によるがんサバイバーの出産例が報告されましたが、熊本でもこうした報告ができるよう頑張っているところです。