肥後医育塾公開セミナー

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令和2年度 第1回公開セミナー「がんの予防と早期診断」

【講師】
熊本大学大学院生命科学研究部産科婦人科学講座 准教授
大場 隆

『【講演B】遺伝するがんと向き合うために知っておきたいこと』
むやみに恐れないこと大切 要因知って 前向きな対応を


   遺伝子は、いわば人間の身体をつくる設計図のようなもので、料理に例えるとレシピの役割を果たします。ある細胞でがん遺伝子に変異が起こってもがん抑制遺伝子によって修復されますが、がん抑制遺伝子の働きに異常があると、細胞はがん化に向かいます。
 遺伝性がんを持つ人は一対のがん抑制遺伝子の片方の働きが生まれつき低下しています。そのために残り1つのがん抑制遺伝子に変異が起きただけで容易にがん化が進みます。遺伝性がんでは、異なる臓器にがんができる「重複がん」が多く見られるのが特徴で、がんが起きやすい部位は遺伝性がんの種類によって一定の傾向があります。
 注意が必要なのは、遺伝とは別の要因でもがんになることです。例えば、家族が同じ生活習慣を共有することで、がんになることもあります。そこで「家系にがんが多いので心配」という人に対しては、がんの要因が本当に遺伝なのかを見分ける必要があります。
 家族性がんが疑われる患者さんに対しては、まず問診を行い家系図を作成して、検査の意義を説明して本人の意思を確認した上で遺伝子検査に進みます。もし陽性となった場合は計画的な経過観察を始めます。ここまでにカウンセリングを何度も重ね、慎重に進めていきます。
 遺伝性がんと診断されると不安になったり、将来家族ががんになるかもしれないなどと悩まれたりするかもしれませんが、一方で、診断されたことで重複がんや家族のがんを予知し、計画的な予防や早期発見ができるようになります。加えて最近は、遺伝性がんに有効な治療法が出てきました。それは遺伝性がんに特に作用する抗がん剤療法と予防的リスク低減手術です。
 遺伝性がんの血縁者で、がんを発症していない方が遺伝子検査を受けようとする場合は、一部の例外を除いて本人の同意が前提になります。そのため本人がしっかりとした判断ができる18歳以上である必要があります。
 私たち医療従事者は、遺伝子検査が陽性だった未発症の方に対しては、その人に特化した経過観察計画を作成し、生活習慣の改善などを勧めることで、がん発症のリスクをできるだけ抑えられるよう努めています。