肥後医育塾公開セミナー

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令和元年度 第2回公開セミナー「あなたもかかる? 知っておきたい感染症」

【座長・講師】
熊本大学ヒトレトロウイルス学共同研究センター
臨床レトロウイルス学分野 教授
松下 修三

『【講演C】誰に相談する?エイズ』
治療法進歩で死亡率は減少 感染者数は高止まり¥態


  治療薬の進歩により、現在はHIVに感染しても毎日1錠の薬を飲み続ければ、エイズを発症せず、パートナーへの感染も起きない時代になりました。
 HIV感染からエイズ発症に至る症状を説明します。まずウイルスは性行為で体内に入り、初めて感染すると、発熱のほか、リンパ節腫(しゅ)脹(ちょう)や咽頭炎、皮疹を来したり、筋肉痛や関節痛、頭痛、下痢、吐き気、嘔吐などの症状が出たりします。けれども、それらは数週間から数カ月で自然と治まります。その後は特異的な症状はなく、性器などに病変が出ることもありません。しかし体内では、免疫細胞であるCD4リンパ球が減少して免疫力が低下し、さまざまな病気にかかりやすくなります。
 かつては輸血用血液などによるHIV感染もありましたが、現在、血液は全て検査されるようになり、その危険はなくなりました。HIVに感染した母親から子どもにうつる母子感染への懸念についても、母親が治療を続けていれば、感染することはほぼありません。
 1996年にHIV感染の抗ウイルス療法が開発されました。それにより、エイズによる死亡率が以前は約80%だったのが、現在、10%程度にまで減少しています。早期発見、早期治療によって、エイズで死ぬことは少なくなりました。ただし、HIVに感染した細胞はずっと残るため、服薬は一生続けなければなりません。また、合併症のリスクもあります。
 そこで感染予防のために、全世界で性交時のコンドーム使用が推奨されています。HIV感染の予防薬も開発されていますが、性感染症を必ず防げるものではないため、まだ日本では承認されていません。
 日本のHIV感染者数は現在、およそ3万人と推計され、高止まりの状態にあります。それは十分な検査が行われていないからだと思われます。保健所では無料で検査を受けられ、相談もできます。同時に性感染症の検査も受けられます。
 昨年、HIV感染を隠していたことを理由にした内定取り消しの是非を争う裁判がありましたが、今は感染を公言する必要はありません。企業側が敗訴したのは、採用担当者の知識が古かったためだと考えられます。
 性感染症の予防は自己責任だけでは解決しません。正しい知識のアップデート(刷新)とともに、同性愛者や両性愛者、性同一性障害など「LGBT」への偏見・差別をなくし、性的少数者を受け入れる寛容さを持つことも求められています。