肥後医育塾公開セミナー

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平成30年度 第3回公開セミナー「ワクチンのこと 正しく知りましょう」

【講師】
済生会熊本病院TQM部(感染管理室/医療安全管理室/品質管理室)副部長
村中 裕之

『講演C 肺炎球菌ワクチンの現状』
65歳以上に定期接種を推奨 肺炎の重症化リスクが軽減


  肺炎球菌ワクチンは2014年10月に定期接種が始まりました。厚生労働省は基本的に65歳以上の高齢者に5年間隔での接種を推奨しており、日常生活が制限される程度の心疾患や呼吸器疾患などの合併症を有する人は60歳から接種の対象となります。初回のみ定期接種で、2回目以降、任意接種になります。定期接種開始から今年で5年目を迎え65歳以上の人を網羅しましたが、接種率は40%程度にとどまっています。そこで今後5年間も定期接種を継続していくことが最近決まったようです。
 肺炎による死亡は社会の高齢化に伴い増加。2011年にはがん、心臓疾患に次いで、肺炎が死因の第3位に入りました。肺炎の原因となる菌は、肺炎球菌が普段の社会生活を送っている人で発症する「市中肺炎」の28%、介護施設入所中の人などで発症する「医療・介護関連肺炎」の26%と最も多いことが報告されています。
 肺炎球菌は高齢者の5%程度が喉から鼻の部分に保菌しているといわれ、さまざまな原因で副鼻腔炎や中耳炎、肺炎を起こすことがあります。重症化すると、全身性の菌血症や髄膜炎を発症することも。発病リスクの高い人は、高齢者、慢性の肺疾患(肺気腫や慢性気管支炎、ぜんそく)、心臓疾患がある人、糖尿病、肝臓疾患がある人、脾(ひ)臓(ぞう)を摘出した無脾者、がんの患者などで報告されています。
 肺炎球菌ワクチンの定期接種には、多糖体ワクチン「ニューモバックス(PPSV23)」が使用されています。肺炎球菌は莢(きょう)膜(まく)多糖体の膜を持っており、その血清型は93種類あります。ニューモバックスはこのうちの23種の血清型に対応し、重症肺炎球菌感染症の50〜70%をカバーしています。これまでの報告では、インフルエンザワクチンの併用により効果が増すことが明らかになっています。
 副反応について、厚生労働省の報告では、注射部位での痛みや熱、腫れといった局所の症状が5%以上ありますが、発熱や筋肉痛といった全身症状は1〜5%、じんましんはごくまれに認められる程度です。これまでに、命に関わるような副反応は報告されていません。
 接種可能な肺炎球菌ワクチンには結合型ワクチンの「プレベナー(PCV13)」もあります。肺炎球菌の13種の血清型に対応し、重症肺炎球菌感染症の30〜50%をカバーします。ニューモバックスよりカバーできる血清型は少ないですが、効果が高く、持続期間が長いという特長があります。ただ、こちらは任意接種のみです。肺炎球菌ワクチンの予防接種は、熊本市保健所が相談窓口になっています。肺炎球菌感染症による重症化のリスクを減らすため、予防接種をお薦めします。