肥後医育塾公開セミナー

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平成30年度 第3回公開セミナー「ワクチンのこと 正しく知りましょう」

【講師】
みやはらレディースクリニック院長
熊本県がん検診従事者(機関)認定協議会子宮がん部会委員
宮原 陽

『講演B 若い世代に増加する子宮頸がんとワクチン接種の現状について』
女性78人に1人が毎年発症 予防接種の大切さ理解して


  日本では毎年1万人(女性78人に1人)が新たに子宮頸がんを発症し、毎年約3千人(339人に1人)がこのがんで亡くなっています。発症者は1990年時点で、人口10万人当たり30.8人でしたが、2012年には63.5人と倍増。特に20〜40歳代での増加が著しく、妊娠・出産の多い年代と重なっているのが問題となっています。初期で発見され命は助かっても、子宮全体を切除してしまうと妊娠・出産できなくなります。
 子宮頸がんの原因は、イボをつくるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染がほとんどで、性交渉により感染します。性交渉のある女性の50〜80%が感染しますが、約90%が数週間から2年間で消失します。数年〜10年間持続して感染があると、1万人当たり60人が前がん状態へ進行し、さらに6人が進行した子宮頸がんを発症します。
 HPVは150種以上あるとされ、子宮頸がん発症の原因になるタイプを「高リスク型」と呼び、中でも16型と18型が、その可能性が高いです。子宮頸がんを発症した女性では、20歳代で90%、30歳代で76%がこの2つのタイプのHPVに感染していました。またHPVは、子宮頸がんのほか、子宮外の腟がんや外陰がん、男女を問わず咽頭がんなどの原因にもなります。
 子宮頸がんの予防と早期発見には、それぞれワクチンを使った予防接種と、子宮頸がん検診があります。がん検診の受診率は欧米の約半分の40%程度で、若い世代では22%と低迷しています。一方の予防接種は2013年4月に定期接種化されましたが、同年6月、副反応を理由に厚生労働省は、積極的な接種勧奨を見合わせることにしました。それから6年たった現在、接種率はほぼ0%の状態が続き、未接種の世代での子宮頸がん増加が心配されています。
 HPVワクチンの副反応として当時、激しい痛みや失神をはじめ、月経不順、頭痛、だるさ、疲れ、目まい、不眠症、物覚えや計算能力の低下などが問題視されました。しかしその後、厚生労働省の39回に及ぶ検討会で、こうした症状は予防接種を受けていない女性と男性にも見られることなどから、「HPVワクチンとの因果関係は言及できない」と結論付けられました。
 海外の先進国に目を向けると、予防接種を受ける人が男女共に70%を超えるオーストラリアでは、2028年には子宮頸がんは撲滅するとさえ推測されています。性交渉を始める年齢になる前にぜひ一度、子宮頸がんの予防接種について家族で話し合ってもらいたいと思います。