肥後医育塾公開セミナー

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平成30年度 第3回公開セミナー「ワクチンのこと 正しく知りましょう」

【講師】
一般社団法人熊本市医師会熊本地域医療センター/熊本県予防接種センター小児科部長
柳井 雅明

『講演A こどもの予防接種の現状と課題』
生後2カ月〜就学前に実施 「予防に勝る救急医療なし」


  しばしば大流行し問題となるインフルエンザですが、感染者1人が他人を感染させられるのは2〜3人程度。麻疹の場合はもっと強力で16〜21人に広がります。おたふくかぜや百日ぜきも非常に強い感染力があります。これらの感染を防ぐには予防接種率を90〜95%に高め、集団で防衛する必要があります。
 ワクチンを十分に接種できない発展途上国は感染症で苦しんでいますが、以前は日本も同じ状況でした。ワクチンが導入されるにつれ、感染症は減りましたが、10年ほど前までは他の先進国よりも公的接種が行われるワクチンの数が少ない「ワクチンギャップ」が存在しました。この状況は近年改善され、2010年から、細菌性髄膜炎の原因となるヒブと肺炎球菌、子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)に対する予防接種に公的助成が開始。12年から4種混合(ジフテリア、百日ぜき、破傷風、ポリオ)、14年に水痘、16年にB型肝炎ワクチンが定期接種になり、現在、ロタウイルスの定期接種化が検討されています。
 小児救急の現場では、以前は年間約千例のヒブと肺炎球菌による細菌性髄膜炎のうち7%が死亡、30〜40%が重症化し後遺症を残していました。しかし今では、ヒブはほぼ100%なくなり、肺炎球菌が原因の髄膜炎も約70%減少しました。ロタウイルスによる胃腸炎も死に至る、または後遺症を残す危険がある感染症のため、定期接種化が望まれます。麻疹は、肺炎や脳炎を起こして後遺症が残るか、死亡することもあります。昨年から再び流行している風疹は、妊娠初期にかかると、出生児に先天性風疹症候群と呼ばれる難聴や白内障、心疾患の発症リスクもあります。そのため、これらの感染症に対し、予防接種を続けていく必要があります。
 定期接種は生後2カ月ぐらいから始まり、就学前までにかなり多くの予防接種を行います。そのため同時接種をすることがありますが、これは世界中で日常診療手技として行われており、基本的に問題ありません。
 ただ、ワクチンは生体にとっては異物であるため、副反応が出ることも。残念ながら100%安全なワクチンはありません。しかし、そのほとんどが、発熱や痛み、腫れなどの局所反応で、重篤な副反応が起こる確率は100万分の1程度です。
 予防接種により、小児期に罹(り)患(かん)する感染症の半分程度は防げると考えられます。小児初期救急医療の現場では、ワクチンを受けてさえいれば助かった、後遺症が残らなかったという患者さんを多数見てきました。そうした意味で「予防に勝る救急医療なし」と考えています。