【講師】 |
『講演A女性のエストロゲン欠乏と更年期・老年期』
生活習慣の変化が悪影響 骨粗しょう症のリスクも
女性の健康に大きく関わる女性ホルモン「エストロゲン」は、ただ一つの物質ではなく、同様の作用を持つ物質の総称です。
卵巣から出るエストロゲンは女性らしい体形を発達させるとともに妊娠するために必要です。そして更年期になると急激に減り、閉経後は出なくなります。
エストロゲンは細胞の核の中にある受容体に作用しますが、大豆などに含まれる植物エストロゲンも受容体に弱い作用を及ぼします。大豆約200cに含まれる植物エストロゲンは、エストロゲンの薬1錠に相当します。日本人は植物エストロゲンを結構たくさん取っている民族だといえるでしょう。
次に、エストロゲンの骨への関与についてお話しします。骨はコラーゲンの繊維の周囲をカルシウムが固めていて、鉄筋コンクリートによく例えられます。骨もまた常に一定の割合で壊され、その一方で新たに形成され続けており、これを骨の「リモデリング」と言います。骨が壊され過ぎないよう作用しているのがエストロゲンです。
破骨が進み過ぎると骨の形は残っていますが、中がスカスカになり、骨折しやすくなります。それが骨粗しょう症です。高齢者が骨粗しょう症になり、さらに背骨や大腿骨が折れると、生活の質が大きく損なわれて寿命に関わってきます。
女性の骨量は若い時をピークに、閉経を境に急に下がります。高齢になっても元気に生活しようと思えば、若いうちに十分な骨量を確保しておく必要があります。しかし最近の若い女性の生活習慣には低エストロゲン状態を招く危険があります。
まずダイエットのために減食している人が増えていることが問題です。半年で体重が約20%減ると生理が止まり、卵巣からエストロゲンが出なくなります。さらに、減食による体重減少は骨への負荷を減らし、骨を作るのに必要なタンパク質やカルシウムの不足を招いて骨粗しょう症がますます進行します。
また、若い女性が魚をあまり食べなくなったため、カルシウムを吸収するビタミンDが不足しがちです。ビタミンDは日光を浴びるとつくられますが、肌を白く保ちたいと思う女性が増え、これもビタミンDの不足を招いています。出産後に骨粗しょう症になる人もいますが、逆に妊娠をすることでカルシウムの吸収が増え、体重が増えることで骨が強くなりますので、正しい生活習慣を守れば、妊娠・出産は骨粗しょう症のリスクを下げる効果があります。
女性の出産年齢の高齢化や少子化のほか、ダイエットや美白、魚離れといわれる食生活は、骨量低下を助長しており、将来の骨粗しょう症への影響が懸念されます。