【講師】 |
『講演C 大気汚染と喫煙と社会』
受動喫煙のない社会に
たばこの煙の成分には、4700種類以上の化学物質と70種類の発がん性物質が含まれています。がんの危険因子はさまざまありますが、喫煙者において、たばこはその原因の6割を占め、最大です。
たばこには依存性があり、なかなかやめられません。たばこの煙を吸い込むと、吸収された有害物質により遺伝子が傷つき、代謝異常、老化促進、血栓や血管障害、炎症が全身に起こり、喫煙する本人ばかりではなく、周りの人にも害を及ぼします。
1968(昭和43)年に大気汚染防止法が制定され、体に害を及ぼす大気汚染の特定物質28種が指定されましたが、たばこの煙には、このうち少なくとも12種が含まれます。
PM2.5は、吸い込むと肺の一番奥まで入る微粒子で、肺や全身の炎症、血栓の形成や動脈硬化の危険因子です。たばこの煙はそのPM2.5の塊です。屋外のPM2.5も問題ですが、日本の建物内はさらに劣悪な環境が多く、一番の問題は、たばこの煙による「屋内の大気汚染」です。
喫煙の際、本人が吸い込む「主流煙」と周囲に漂う「副流煙」を比べると、副流煙には有害な化学物質が主流煙の数倍から百数十倍も多く含まれています。たとえその場で喫煙をしていなくても、屋内のじゅうたんや壁紙には有害物質が付着・残留し、継続して揮発しています。これを「サードハンド・スモーク」といいます。受動喫煙はCOPD(慢性閉塞性肺疾患)や脳血管疾患、虚血性心疾患ほか多くの疾患に影響します。海外での受動喫煙防止法施行後の分析から、入院や死亡率が大きく低下することが分かっています。
日本では「分煙」が行われていますが、研究の結果、隔離または換気した喫煙場所を設けても、非喫煙者は保護されないことが判明しています。100%完全禁煙の環境だけが、受動喫煙の防止に有効です。
喫煙者の半数以上が過去に禁煙を試み失敗し、7割の人が禁煙を望んでいるという調査結果(2003年度厚生労働省)があります。喫煙される方には機会をとらえて依存症という病気を克服してほしいと思います。
健康寿命を延ばすためには、禁煙を推進し、社会の受動喫煙防止を進める必要があります。社会を動かすには、多くの方々の参加や応援が必要です。
「たばこをやめて後悔した人はいない」ということを最後に申し上げておきたいと思います。