肥後医育塾公開セミナー

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平成29年度 第1回公開セミナー「呼吸器病医療の進歩と社会」

【講師】
熊本地域医療センター総合診療部長
柏原 光介(かしわばら こうすけ)

『講演A 肺がん治療の最前線 内科治療』
より個別的治療が可能に


   日本人の肺がんの50%を占めているのが、喫煙とは無関係な肺腺がんです。肺がんの中ではこのがんに対する治療法が最も進んでいます。喫煙と関係があるのが、肺扁平上皮(へんぺいじょうひ)がん(25%)と肺小細胞がん(20%)。その他、5%が肺大細胞がんです。
 肺がんに対して今は、4つの治療薬があります。「分子標的薬剤」「免疫チェックポイント阻害剤」「細胞障害性抗がん剤」「血管新生阻害剤」です。治療に際しては、がんの細胞を採取し、その遺伝子やタンパク質を調べます。その結果によって、4つの治療薬を使い分けます。
 分子標的薬剤は、がん細胞の発生に関係する遺伝子異常「ドライバーミューテーション」(がん細胞の暴走)を抑える治療法です。がん細胞は遺伝子の傷によって発生することから、分子標的薬剤でその傷を修復するわけです。がんの大きさが半分以下になることを示す奏功率は70%と、従来の抗がん剤(30%)の2倍以上が期待できます。
 免疫チェックポイント阻害剤は、人間の免疫システムに作用する薬です。がん細胞は免疫にブレーキをかけて増殖しますので、免疫チェックポイント阻害剤によってそのブレーキを解除し、免疫細胞がかつて、がん細胞を攻撃していたことを思い出させます。免疫細胞が記憶を取り戻すと、薬をやめても効果が長く続くことがあります。肺扁平上皮がんには大変有効な薬です。ただその逆に、自己免疫疾患などの副作用が薬をやめても長引くことがあります。
 細胞障害性抗がん剤は、がん細胞を破壊する従来型の薬です。がん細胞だけでなく正常細胞にも影響を与えるため副作用として、体がきつい、食欲がない、ブツブツが出る、髪の毛が抜ける、手足がしびれるなどの症状が出ることがあります。しかし現在では、副作用を和らげる治療が進歩しており、外来で続けることができます。
 血管新生阻害剤は、腫瘍血管を正常化して抗がん剤が病変に到達しやすいようにする薬で、抗がん剤と組み合わせて使用します。
 現在は新しい薬がどんどん開発されており、患者さんごとに最良と思われる個別的治療を行うこともできるようになりました。肺がんが、治療しながら付き合っていく病気になる日も近いように思われます。