【講師】 |
『講演(1) 慢性腎臓病と塩分・タンパク制限』
成人の8人に1人が腎臓病
知らないうちに進行する怖さ
慢性腎臓病は「CKD(Chronic Kidney Disease)」と呼ばれます。症状には軽いものからから重症のものまで幅があり、日本人の患者数は約1330万人といわれています。実に成人の8人に1人の割合に上り、重症で人工透析が必要な患者数は31万人(2013年度)。これは日本人全体の400人に1人の割合です。実は、熊本県はこれを上回る状況にあります。
腎臓の機能が低下すると、体の中に尿毒素と呼ばれるものがたまってきますが、腎機能が健常の3分の1程度に低下するまで症状が出ないことがほとんどです。つまり気が付かないうちに病気が進行するのがCKDの怖さです。また、腎機能が低下した場合、治療により腎機能の保持は可能ですが、健康な状態には戻らないことにも注意が必要です。CKDを放っておくと人工透析が必要になる恐れがありますので、できるだけ早期に発見し、早期に治療を始めることが肝心です。
腎臓は単に尿をつくる臓器ではなく、心臓から送られてくる1日約1.5トンの血液から不要な老廃物だけを選択して排泄してくれる、とてもハイテクな臓器です。腎臓を患うと血尿や蛋白尿が出てくるようになります。病気が進んで腎臓が弱れば、血液の検査でクレアチニン値やeGFR値(推算糸球体ろ過量)に異常が見られるようになります。eGFR値が低下することは重症度が増すことを意味します。早期の腎障害の発見にはeGFR値の算出が役に立ちます。
機能低下が生み出す負の循環
腎臓を守るためには塩分の制限や腎機能の状態に応じたタンパク質の制限が必要になります。
塩の成分であるナトリウムは、人間の進化と密接に関連した血液の成分です。体の筋肉を動かす、神経の情報伝導を行う、体内の浸透圧を保ち体液量を調節するといった重要な働きをしています。体に必要なものであるため、人間はナトリウムを含む塩分をおいしく感じるようになっています。
しかし取り過ぎると、体内のナトリウム濃度を維持するために腎臓から水をあまり出さないようになります。その結果、血圧が高くなり、腎臓で血液をろ過する糸球体という細い血管が傷んでしまいます。これは腎硬化症といってCKDの一つです。また高血圧になると全身の血管も傷み、心筋梗塞や脳梗塞の原因になります。腎臓が弱ることで高血圧症が悪化し、これにより腎臓がまた弱るという負の循環も起こりやすくなります。
肉、魚、卵、大豆などに多く含まれるタンパク質も、人間にとってなくてはならない栄養素です。体をつくるほか、酵素、免疫力、ホルモンなどの内分泌、筋肉の構成と作動による運動、栄養の貯蔵・輸送など、いろいろな作用があります。ところが、腎臓が弱ると、摂取したタンパク質の老廃物を十分に排出することができず体にたまってしまいます。それが腎臓に負担をかけることになり、腎臓がさらに弱りやすくなるという負の循環がここでも起こります。
タンパク質制限の際は、エネルギー量(カロリー)が落ちないよう注意が必要です。エネルギーが不足すると、体内の筋肉をエネルギー源として使うようになります。つまり、口から肉を食べていることと同じ結果になり、制限した効果がなくなってしまいます。
高血圧による腎硬化症が増加
人工透析患者の原疾患を調査したデータによると、以前は糸球体腎炎が主体でしたが、1998年から糖尿病が1位になり、ここ数年は高血圧を原因とした腎硬化症が増え続けています。
腎臓病は早い段階で薬をきちんと飲み、食事療法を頑張ることで腎不全への進行を止めることが可能です。塩分やタンパク質の摂取が多いと腎臓が早く弱りますが、食事に気を付けることで予防できます。腎臓や血圧のことが心配になったら、まずは病院で検査を受けることが大切です。