肥後医育塾公開セミナー

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平成26年度 第2回公開セミナー「いつまでも食事を楽しむために」

【講師】
熊本大学大学院生命科学研究部 呼吸器内科学分野 教授
興梠 博次

『講演(4)高齢者の肺炎とその予防』
加齢とともに増える誤嚥 咳の感覚残し機能を維持


   肺炎は特に高齢者に増えています。健康で長生きするためには、肺炎にならないことが大事です。
 肺炎は、元気な人がなる市中肺炎と、介護を受けている人がかかる介護関連肺炎に分けられます。市中肺炎の原因はマイコプラズマや細菌の感染ですが、介護関連肺炎は口や鼻に常在する細菌が肺に入ることで発症する誤嚥性肺炎がほとんどです。
 誤嚥性肺炎の診断では、熱が出る、咳やたんが出て、たんの色が膿(うみ)のような緑色や黄色、たんの中に食べたものが混じっている、などがポイントになります。ただ高齢者の場合、自分に熱があることに気付かない人もいます。また、レントゲン写真、血液の白血球数や炎症反応の異常で肺炎の診断をします。
 誤嚥を起こしやすい状況についてはすでに説明がありました通り、高齢になって嚥下機能が低下し、咳の反応が弱くなると、肺炎を起こしやすくなります。寝たきりで力がなくなっている、脳血管障害(脳卒中)、パーキンソン病、認知症、さまざまな神経疾患。それから、口の中の機能が落ちている場合。例えば、義歯がうまく合わない、口の中が乾燥する、悪性腫瘍ができている、などです。また、胃や食道の手術の後、その他、睡眠薬の服用も関係があります。
 嚥下機能を簡易に調べる方法があります。例えば、水が上手に飲めない、つばを30秒間に3回飲み込めない場合は要注意です。嚥下には、舌や喉の力などいろいろな力が必要で、実際には強い力を必要とします。ご高齢の方で、むせや飲み込みに時間がかかるときは、気を付けなければなりません。
 誤嚥性肺炎の予防には口腔ケア、とろみの食事をとり、胃や食道の手術後は上半身30度の挙上などを心がけます。また、痩せ過ぎと肥満を避ける、タバコを吸わず、飲酒は適度な量を守って健康づくりを心がけ、肺炎球菌やインフルエンザなどのワクチン接種を受けることも予防のポイントになります。
 肺炎球菌ワクチンの接種には、支援が出るようになりました。平成26年度に65・70・75・80・85・90・95・100歳になる人は、4600円で受けられます。予防接種のはがきが来なかった人は、8000円程度で受けることができます。ワクチンの効能は5年ですので、5年後に再接種すると効能が持続します。
 肺炎にならないためには、まず嚥下機能を維持し、特に咳の感覚を残すことが大事です。そのために、高齢でも元気でいることが重要です。
 体を動かし、自分のことは自分で行い、家族に協力し、楽しいおしゃべりを心掛けましょう。時には他人に頼って甘えることや、周囲への感謝の言葉も、かわいがってもらえるポイントです。高齢になって、周りから大事にされるよう工夫されたら、楽しく生きていけるのではないでしょうか。