肥後医育塾公開セミナー

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平成26年度 第2回公開セミナー「いつまでも食事を楽しむために」

【講師】
熊本大学医学部附属病院 栄養管理部 栄養管理室長
猪原 淑子

『講演(3)食べやすい食事の工夫』
栄養バランスの良い献立で飲み込みやすさ考えた調理を


   高齢になると体にさまざまな変化が生じますが、かむ、飲み込むなどの動作がうまくできなくなる嚥下障害には注意が必要です。
 嚥下障害を放っておくと、誤嚥、低栄養、脱水を起こす原因になります。特に高齢者の場合、歯周病、歯がなくなる、脳血管障害などでかむ力が衰え、飲み込む力も弱くなります。また、唾液の分泌が減少し、喉の渇きに対して鈍くなり、味覚や嗅覚が衰え、消化吸収能力が低下します。十分に食べられなくなれば、栄養障害から全身の機能が低下し、生活の質の低下をもたらします。
 嚥下障害がある場合、「嚥下調整食」や「嚥下食」といわれる食事形態で対応します。硬さ、口の中の付着具合、まとまりやすさを考慮した食事で、誤嚥など食のリスク、嚥下機能に配慮され、障害のレベルに応じた形態に分類されています。
 食べにくい食品は、かみ切りにくく繊維が多い、弾力の強いもので、食品ではゴボウ、タケノコ、タコ、イカなど。ゆで卵やパン、もちのように、喉に残りやすく、パサパサしたもの、粘りのあるもの。それからお茶、梅干し、レモンのように、むせやすい液体や酸味が強いもの。液体と固体が混在し、口の中で水分と固形分に分かれるものも危険で、お茶漬けや高野豆腐などは食べにくいのです。
 逆に食べやすいのは、熟したバナナや柿のように、口の中でまとまりやすく、酸味の少ないもの。絹ごし豆腐、ムース、茶碗蒸し、果汁のゼリーのように、ツルンとしたもの。それから、おかゆやポタージュ、ヨーグルト、アイスクリームのように、とろみのあるものです。
 食べやすさ、飲み込みやすさを決めるポイントは3つあります。(1)軟らかいこと(2)口や喉に張り付きにくいこと(3)口の中でまとまりやすいこと─です。
 調理の工夫としては、特に下ごしらえが大事になります。野菜であれば繊維を断つ、筋を切る、皮をむく、一口で食べられるような大きさに切る。たたく、すりつぶす、加熱して軟らかくするなど。飲み込みやすくするには、適度なとろみもポイントになります。
 食事の基本は主食、主菜、副菜、汁物がそろっていることです。そうすれば栄養のバランスが良い献立となります。安全に楽しく、おいしく食べるためには、ぜひ専門家の指導を受けてください。病院や療養施設などには、医師、看護師、言語聴覚士、栄養士など、いろいろな分野の専門家チームがいます。嚥下機能や口腔ケア、食べる時の姿勢や器具、むせ・窒息の時の対処法、食事・栄養のことで困ったときなど、相談すれば個々に応じたアドバイスを受けられます。
 点滴ばかりで食べられなかった患者さんが、口から食べられるようになると、本当に顔の色つやが良くなり、表情が生き生きしてきます。食べることは、“生きる源"であることを私は日々実感しています。