肥後医育塾公開セミナー

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平成26年度 第2回公開セミナー「いつまでも食事を楽しむために」

【座長・講師】
熊本大学大学院生命科学研究部 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学分野 教授
湯本 英二

『講演(1)どのように食物を飲み込むの?』
高齢による嚥下機能の低下 リハビリで飲み込む力を訓練


   「食べる」ことは、「他者と話をする」「自分で動く」こととともに、人間の生活の質(QOL)を決める重要な要素の一つといわれています。
 人間の喉は上手に交通整理を行い、食べ物は喉の奥の食道に、吸い込んだ息は手前の気管に送ります。気管の上端には声を出すための声帯があり、食べ物を飲み込むときは反射的にそこが閉じ、食べ物が気管に入らないようふたをします。誤って水や食べ物が気管に入りかけると、むせて吐き出す仕組みになっています。
 医療では「飲み込み=嚥下」を理解するために、嚥下の段階をいくつかに分けて考えます。(1)食べ物や飲み物があることを分かる「認知期」(2)それを口にして、飲み物であれば飲み、食べ物であればかみ砕く「捕食・咀嚼(そしゃく)期」(3)食べたものを1回で飲み込める大きさの食塊にして食道に送り込む「口腔期」(4)食塊を食道に送り込む「咽頭期」(5)蠕動(ぜんどう)運動で食べ物を胃に送り込む「食道期」─です。
 入院や介護施設で食事の介助を受ける場合も、食べ物を喉の奥に送り込み、それを気管でなく、食道に送ることは自分でしなければなりません。咽頭に食塊を送り込む段階までは自分で制御できますが、気管にふたをして食道の入り口を広げる動作は反射になります。
 正常な嚥下機能が障害されると、最初はちょっとむせるだけですが、高度に障害されると、気管に食べ物や飲み物、唾液などが入る誤嚥(ごえん)が起き、誤嚥性肺炎になります。唾液には歯や歯肉に関連した細菌、蓄膿症に関連した細菌など悪い菌が混ざっているため、自分の口や鼻に常在する細菌により肺炎を起こしてしまいます。それに加えて、胃から食道に逆流する誤嚥もあります。
 嚥下機能の低下は、加齢とともに起こります。脳血管の障害、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、神経の病気、筋肉の病気、それから口・喉の奥・食道・胃などのできもの、あるいはその術後、呼吸器の疾患、認知機能の低下やうつでも嚥下機能が落ちます。また、他の病気が基礎に隠れていることもあります。
 日本人の死因は平成23年度以降、がん、心疾患に次いで、肺炎が第3位になり、肺炎は年々増加傾向にあります。肺炎の原因にはいろいろありますが、誤嚥による肺炎が、高齢化とともに増加しています。
 私たちが嚥下障害の治療をする際の目標は、食事を工夫して3食とも口から栄養を取ってもらうことです。そのために飲み込みの訓練をします。首を伸ばす、舌を動かす、言葉を出す、息の仕方の練習など、いろいろなことをします。手術で治る人はほんの一部で、嚥下障害の治療の大半はリハビリテーションなのです。
 熊本大学医学部附属病院では昨年4月に嚥下障害診療センターを発足し、多職種の医療関係者がチームになって治療に当たっています。