【座長・講師】 |
『《講演B》介護とうつ』
負担度が高い抑うつ的介護者
わたしは老年期の精神医学を専門としています。認知症やうつ病の方も多く診ている中で、「介護とうつ」というテーマは特に現代の日本に生きる女性にとって大きな問題だと思っています。
日本は、高度経済成長著しい1970年に65歳以上の高齢者の割合が7%を超え、高齢化社会に入ったと言われています。95年に14%、2005年には20%、現在は23%を越えました。これは学問的には超高齢社会と呼ばれています。
日本以外にも、北欧諸国などには超高齢社会の国はありますが、日本はかつて人類が経験したことのないスピードで高齢者人口が急増したせいで、高齢者の受け入れ体制が間に合っていません。社会のシステムもできてないし、一般市民も超高齢社会での生き方を考えられていません。そこが大きな問題点だと思っています。
年を重ねると、ジェンダー・ロール(性的役割)の喪失や、それから解放される時期がやってきます。男性は定年を迎え、女性は子育てをしなくてよくなる。「さあ、ここから新たな生活をしていこう」という矢先に、介護の問題が突然やってくる訳です。日本も欧米に近い考えになってきましたが、まだまだ「介護は女性がやるべきだ」「やって当然」と思っている女性も少なくありません。
高齢者2人の世帯で夫が認知症になった場合、夫が担ってた一家の大黒柱としての役割も負い、さらに夫の介護もやらなくてはいけない。そして今まで自分が担っていた家事も引き続きやっていく。非常に大変なことがこの時期に起こってきます。もちろん、その逆の場合もあり、男性にとっては今までやったことのない家事などをしなくてはいけない状況に立たされることになります。抑うつ的介護者と非抑うつ介護者の介護負担度をアンケートを取って比較したところ、抑うつ的介護者の方が、非抑うつ的介護者よりも負担度が倍以上高いという結果が出ています。
一方、65歳までに発症する若年性認知症の介護の場合は、一家の収入源がなくなるといった経済的な問題や、若い方に介護サービスを提供する施設が非常に少ないといったことから介護者に大きなストレスがかかります。わたしたちは、専門スタッフが自宅まで訪問したり、地元の施設に交渉して若年性認知症の方が安心して利用できるよう体制を整えてもらうような試みを行っています。