肥後医育塾公開セミナー

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平成24年度 第1回公開セミナー「女性のためのメンタルヘルス」

【講師】
東京女子医科大学附属女性生涯健康センター 所長・教授
加茂 登志子

『《特別講演》女性と『うつ』との微妙な関係〜月経前症候群、産後うつ、更年期のうつを乗り切るコツ〜』
自律神経いたわり 複合過労に注意


   メンタルにかかわる病気は、男性に多い疾患と、女性に多い疾患があると言われています。女性に多いのはうつ病や双極性障害(そううつ病)などの気分障害で、うつ病の生涯罹患(りかん)率は、男性が4.2%に対し、女性はその約2倍にあたる8.3%。女性の12〜13人に1人はうつ病を体験するという数値となっています。その他、パニック障害や外傷後ストレス障害(PTSD)などの不安障害も、女性の方がかかりやすいという統計が出ています。
 私が務めているセンターの統計では、初診時に一番多いのが不安障害、二番目が気分障害、三番目が摂食障害や睡眠障害、四番目に統合失調症の順です。しかし詳しく調べてみると、不安障害の43%が気分障害を、また気分障害の22%が不安障害を合併していました。センターでは現在、不安障害と気分障害の2つが、取り組まなくてはいけない大きなテーマとなっています。
 精神科を受診する年齢は、更年期の方が多いと思われるかもしれませんが、実は最も多いのは20代から30代。女性の精神疾患の原因や背景で多いのは、更年期や妊娠出産、月経、子育て、DV、性被害、不妊、夫の浮気などですが、最近では職場のハラスメントの相談も増えてきました。
 女性特有のうつ病としては、月経前にうつ病の症状が出る月経前不快気分障害、出産後の産後うつ病、閉経期(更年期)のうつ病などがあります。こういう女性特有のうつ病はどんな性差から生じるのかというと、やはり一番に挙げられるのが性ホルモンです。性ホルモンが異なると、脳への影響も異なります。月経のサイクルのなかで、エストロゲンとプロゲステロンという2つの性ホルモンが分泌されてますが、この2つの性ホルモンは、子宮内以外の部分へもさまざまな影響を及ぼしています。脳も、もちろんその1つです。
 次は、心理社会的性について。女性のストレスに関してお話したいと思います。男性も女性も、学校を出て社会に出るまでは、社会人としてどう自立していくかという点ではそんなに大きな違いはありませんが、女性は20代から30代にかけて、子どもを生むか、仕事をどうするか、など選択肢が多様化します。
 まず、就職したら社会の中で自分の立場を確立する時期ですが、これがうまくいかないと、摂食障害や自傷行為が起きてしまう場合があります。また「いつ子どもを生んだらいいのか」と考えているうちに、出産のタイミングを見失い、不妊でつらい思いをすることもあります。
 選択肢が多様化する中で、主婦の道を選んだ方は社会からの孤立感を抱え、子どもを生んだ後には、産後うつや育児ストレスの問題も。両立でがんばる人は、全部やろうとして疲れてしまう、独身であれば孤独感を持つなど、さまざまなケースがあります。さらに年を重ねれば、更年期や親の介護などの悩みも出てきます。
 また、年齢に関係ありませんが、パートナー(男性)関係のストレスも少なくありません。DV(ドメスティックバイオレンス)も看過できない問題の一つで以前、日本ではDVは少ないと言われていましたが、ここ20年ぐらいの調査では諸外国と同じように非常に多いと分かりました。1回でもパートナーに殴られたことがある女性は、20歳以上の婚姻歴のある女性のうち24.9%(平成24年3月/内閣府男女共同参画局調べ)もいます。この問題は、家族内暴力なども含めて今後、女性のメンタルヘルスを考える上で、取り組んでいかなくてはいけない大きな課題と言えるでしょう。
 ところで会場のみなさんはマタニティーブルーになった経験がありますか? このマタニティーブルーは、7〜8割の人が経験します。このマタニティーブルーに対応する病気の状態としては産後うつ病があります。月経前症候群は月経前不快気分障害に、更年期障害は更年期うつ病に対応します。月経前、産後、更年期は女性の心身に余裕がなくなる時で、これをここでは「弱り目」と呼びたいと思います。ここに、ストレスやショック、疲労などが重なると「たたり目」になる。月経前不快気分障害や産後うつ病、更年期うつ病は「弱り目にたたり目」状態と呼んでよいと思います。
 産後うつ病のように病名が付くような症状になったら、精神科医でないと対応は難しくなります。やはり精神科に来ていただいて、抗うつ薬などの治療や精神療法、カウンセリングをきちんと受けてもらう必要があります。
 しかし、ふだんの生活では、「弱り目」から「たたり目」に陥らないようにしなくてはいけません。女性の場合、先に述べたように、月経前や産後、更年期など、性ホルモンの変化が著しい時に「弱り目」になりやすくなります。まずは睡眠をとることを大切にし、自律神経をいたわる。複合過労には注意する。抑うつ気分は大切なアラームですので、我慢しすぎないようにすることが重要です。